隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

南アルプス深南部・リンチョウ沢遡下降

 7/19(水)〜22(土)

南アルプス深南部 池口沢湯沢〜池口岳南峰〜南峰東尾根下降〜ダルマ沢下降〜リンチョウ沢本流〜光岳

with Junさん 

 

 

 「リンチョウ」という独特の名前を知ってから、ずっと気になっていた。記録もあまりみられないので、きっと人跡のほとんどないような幽邃な原生林の沢旅ができるのではないか、と思い、計画(妄想?)をあたためてきた。長年の沢仲間であるJunさんを誘うと、嬉しいことに飛びついてくれた。沢と沢をつなぎ、幽邃をゆっくりと堪能する旅にしたいなぁ、とJunさんと話した。

リンチョウに入るには色々なルートどりができるが、余裕をもった行程にしたかったため、遠山川流域の池口沢から入渓とした。池口岳からダルマ沢を下降しリンチョウ沢へ至り、リンチョウ沢本流を遡行したあとは光岳をピストンして、最後は諸川内を下降する計画だった。リンチョウ沢はよかった。自分が沢登りに一番求めている「幽邃」があった気がする。結果的にはリンチョウ沢を歩くなかで、この旅はリンチョウで終わりという思いが強くなった。諸河内を下りたら林道を15kmだし・・。それでJunさんと意見一致し、光からは登山道を下山にした。

 
 
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●7/19 梨元ていしゃば(7:30)~池口沢入渓(8:30)~2俣(13:15)
 
寝不足の車中泊からなんとか起きて支度。ていしゃばから入渓点までは5~6kmほど歩くつもりだったが、ダメ元でタクシーをお願いしたら来てくれるという。ありがたいことだ。 林道奥の橋から入渓した。
最初は単なる里の川だが、堰堤を越え少し進むと深山の趣のする沢登りになった。急ぎ行程でもなかったので、歩き出しは9時前。陽の光がしっかり上がってからの沢なので、苔むした岩や水面が光に照らされ美しい。池口沢も実に美しい沢だ。しかも全然難しくない。下流域右岸の大崩壊を過ぎると両岸が狭まり、いっときゴルジュとなったが、白濁した小滝も楽しく越えられるレベル。Junさんとニコニコしながら、側壁をへつってみたりシャワーでまっすぐ登ったりだ。
その後、2俣までの下流域で滝らしい滝は、幅広の6mほど1つのみ。左岸を容易に越えられる。少し歩き、キレイな真ん丸の釜をもった小滝を過ぎると、岩小屋沢と湯沢を分ける2俣である。
稜線まで抜けられなくもない時間帯ではあるが、本日はここまで。抜けても稜線ビバークとなるだろうし、気分はゆったりしている。時間は昼。深山で昼寝タイムにしましょう。いつものように二人でタープを張り、焚き火を起こして、ダラダラといろいろな話をしたり昼寝したりして過ごした。ふと気が付くと辺りは真っ暗で、時間は20時。どちらともなく寝袋に入った。
 
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入渓。
 
 池口沢も本当に美しい沢だった。

 

 

 

右岸からの大崩壊

 

 

  ゴルジュ。水も深くなく、フリクションで楽しく越えられる。

 

 

 

 唯一の滝らしい滝。右から容易に越えた。

 

 真ん丸の釜。

 

2俣。左が岩小屋沢。右が湯沢。とても快適な幕営地だった。

 

僕は酒はあまり飲まないが、プレモルを山で飲むのが、とある経験から大切な儀式になっている。乾杯。

 

 

 

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●7/20 BP(7:00)~稜線(11:40)~池口岳南峰(12:00)~南峰東尾根下降点(12:30)~ダルマ沢(14:00)~リンチョウ沢出合い(16:00)

 

岩小屋沢と湯沢とどちらを選ぶかだが、当初は岩小屋沢と思っていたが、ダルマ沢へ下降するにあたり、池口岳北峰付近に上がるよりも南峰のほうが地形的に都合がよさそうだったので、急きょ湯沢に変更した。今日は池口岳に詰め上げ、ダルマ沢を下降し、リンチョウ沢の出合いまでの予定だ。

2俣から少々荒れ気味の湯沢を進むと、軽い連瀑になり、登れそうにない2段7m・5m?ほどの滝を左岸の明瞭な踏み跡から巻いた。その後も微妙に荒れ気味の渓相のなかで連瀑帯が続く。いずれもシャワーで越えられるが、水を浴びずに登ろうと思えば水流の脇から登れるところがほとんどだ。1か所だけ水流左から登れば簡単と思われたが、なんとなく完全シャワーで取り付いてみた小滝が小悪くて、V級を超えるようなプチ登攀になってしまい、後続のJunさんを最初で最後の肩がらみで確保した。あえて難しく登ろうとしなければ、どこも問題ないものだったと思う。

連瀑帯が終わると荒れたゴーロとなり、あっという間に水量が減っていった。ガレたルンゼといった様相になり、沢登り的には終わった感が漂う。高度を稼ぐにつれザレザレになっていき、本来は左右どちらかの尾根筋にルートをとったほうがよいのかもしれないが、あえて本流と思われたザレルンゼをまっすぐ登った。踏ん張らないとズルズル流れ落ちていきそうなザレを登り切り、最終的に稜線直下でボロボロの岩をやや緊張感のあるムードで登り、稜線に出た。

すぐ向こうに池口岳南峰のピークが見える。とりあえず軽く一本とり、南峰に向かって歩いた。ダルマ沢への下降ルートとしては2つの尾根を考えていた。一つは山頂から東南に伸び、東に分岐して2013mを経由する尾根。もう一つは山頂の少し北側からほぼまっすぐ東に伸びる尾根。前者は「南アルプス・深南部」で紹介されていて、途中で岩稜の巻きが入ったりと大変なようだ。目視する限り、後者のほうがすっきり沢に下っているし、距離も全然短い。この池口岳南峰東尾根といってよい尾根を下りることにした。

 尾根に入ると登山道と見まごう深い踏み跡があり、ああ、実は地図に載っていない登山道があるのかなと思った。しかし、深南部らしい柔らかい地面は動物の足跡や糞だらけで、それが獣道であることを示していた。ものすごく濃い獣道だ。尾根の下降自体は超快適で、途中右から近くなってきた枝沢に進路を変え、1時間半ほどで順調に下降した。

ダルマ沢との出合いが目の前になったとき、やはりというべきか、クマと遭遇した。東尾根の末端がテラス状になっており、クマはそこで木の実か何かを食べていた。Junさんが「クマがいるー」と小さく教えてくれ、その方向を見るとクマもこちらに気づき、すぐ逃げていった。尾根を忠実に下っていたら完全に鉢合わせになっていたので、ラッキーだった。それにしても、ストック代わりに持っていた木の枝を、無意識に構えて戦う姿勢に入っていた自分・・・どうしようとしていたのか・・。

ダルマ沢の下降も沢登り的には難しさはない。明らかに動物の気配が濃くなった、苔むした原生林の沢を、少しクマにおびえながら歩き下った。2時間程度で、リンチョウ沢との出合いに到着した。出合いは、キャンプ場かと思うくらい、キレイで平らかな広河原になっている。悪天時には相当な水量が押し出すのが見て取れる。あーやっと来れたー、とJunさんと喜んだ。ここに来てみたかったんだー。ようやくリンチョウ沢に来れた。うれしい気持ちでいっぱいになった。明日はきっと素晴らしい一日になることだろう。

 

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 池口沢湯沢は終始荒れ気味。

 

 

これは右から巻いた。

 

この小滝の抜けが悪くて、すごい頑張って登ってしまった。左から行けば簡単だったが・・。 

 

水量の減り始めは早い。

 

 

 

 

稜線直下は少しいやらしかった。

 

向こうに見えるのが池口岳南峰。数分歩けば到着だ。

 

 

下降の「池口岳南峰東尾根」。獣の気配が実に濃い。下降に難しさはない。

 

獣だ! いやパートナーだった!

 

途中でこの枝沢を下りたが・・。写真奥に左右にダルマ沢が流れており、真ん中の影の部分が東尾根末端。そこにクマがいた。

 

 

龍の形をした倒木。

 

 

リンチョウとの出合い。写真奥に向かって水が流れている。右はダルマ沢。左がリンチョウ沢。

 

リンチョウ沢。

 

 

 

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●7/21 BP(7:30)~第一の廊下(8:20)~第二の廊下(10:15)~登山道(14:50)~光岳(15:50)~光岳小屋(16:15)

 

予定はリンチョウ沢本流を忠実にたどって、稜線から登山道を光岳である。光岳をピストンにしてそのまま諸河内への下降点へ移動する予定ではあるが、時間などや気持ちの面から沢下降をやめて光小屋に落ち着くことも現実的な選択肢とした。なにしろ今回の目的はリンチョウ沢をなるべくゆっくり歩くことだ。時間に追われて行動する気は全くない。

出発してすぐに左岸に岩屋があった。これが地形図に載っている「リンチョウ岩小屋」だろうか。雨はしのげるだろうが・・、虫がすごそうだ。

しばらくは河原歩きであるが、人跡がほとんどみられない一方で、鹿を中心に獣の足跡が多く、クマのものもよくみられた。獣の気配が非常に強く感じられた。右岸の斜面に鹿が一頭おり、こちらを見下ろして盛んに警戒の鳴き声を上げていた。鹿はいなくなり、それからというもの獣の気配も薄くなった気がした。まぁ実際にはそんなことはないと思うが、なにやら不思議な気分で歩いているので、神秘的なことが起きても全然おかしくないような気分だったのだ。人の手が全く入っていないわけでは勿論ないけれども、こうした幽邃の沢がやはり一番好きだなぁと、改めて思った。

出発から1時間もかからず、登山大系でいう第一の廊下についた。ゴルジュ内は黒々しており、2m・3m・8mほどの滝場で構成されていたが、どれも登れた。8m滝はロープを出して釜を右壁に渡り、岩棚を上がったところから、水流を間近に見下ろしながらトラバースして落ち口に至る。落ち口へのクライムダウンの一歩が少し悪いが、全体的にⅢ級の範疇だと思う。リンチョウ沢の内容的にはこちらが核心になろうかと思う。

苔むした渓流を進み、いくつかの支流を分けると、第二の廊下。これはゴルジュの抜け口の滝が猛烈なシャワーなので、戻って左岸から獣道を拾って巻いた。一方、第三の廊下はよくわからなかった。少なくとも第一・第二の廊下と比べれば、そこまでのゴルジュではないのだろう。大岩が沢をふさいでいるようなところもあったが、それではないだろう。

オニクビリ沢を過ぎると水量がぐっと減り、源頭の様相になる。池口沢とは異なり、詰めのゴーロとなってからも、量は多くないが水流はなかなか消えない。水が豊かだ。本流を忠実に詰め上げていき、傾斜がかなり立ってきたところで、沢筋はさらに角度を上げ、チムニー状になっているのが見て取れた。これはボロボロそうだし、とても登れなさそうだ。左岸の樹林帯を沢筋からなるべく離れないように、獣道を拾って登高することにした。草付きはなかなか悪く、数手分のほとんど垂直な草付きもあったが、さすがの鹿は普通に登っているようだ。僕もJunさんも草付きは嫌いじゃないほうなのでサクサク進んだが、苦手な人がいれば時間がかかるだろう。

さきほどのチムニー状から少し上がったあたりで、沢に戻った。水量はもうなく、わずかな登りで沢形は消えていった。たぶんどこかで本流から微妙に外れていたのだろう。それからコメツガの樹林を登るとすぐ登山道に出た。あとは登山道を登り、途中でテカリ石に寄って、15:50ごろ山頂。時間も時間だし、結局、沢下降はやめにして光小屋に吸い込まれた。

冒頭に記述したとおり、リンチョウ沢遡行の早い段階で、沢登りとしてはリンチョウ沢で終わりにしませんか、とJunさんと話していた。お互い同じ意見だった。ただ・・、僕たちはタープと緊急用に小さなツエルトしかなかったので、光小屋のテン場にそれを立てるのは憚られ、普通に小屋泊となり、一気にお山が終わった感じになってしまった。でも光小屋はとてもいいところだったので、いいか。

 

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リンチョウ岩小屋?

 

 

水場では獣の足跡が入り乱れている。

 

何か神々しく感じてしまうのは、もう先入観なのだろうか。いままで行ったどの沢とも異なる雰囲気がした。

 

 

 

 

第一の廊下。

 

 

抜けの8m滝の登攀。

 

 

美しい原生林の一コマ。

 

 

 

 

 

 第二の廊下。

 

抜けの滝が悪そうで、左岸巻き。

 

 

 

 

 

 

沢筋が真ん中の影になっているチムニー状になったところから右側の樹林帯を登った。

 

樹林帯の登りでは、ちょっと悪めのポイントが3~4か所あった。

 

沢形が草付きに消えていった。

 

登山道に出た。

 

テカリ石。

 

光岳山頂。電波あり。

 

 

 

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●7/22 BP(6:30)~易老岳(7:40)~易老渡(10:20)~梨元ていしゃば(12:30)

 

本日は下山だけなので、気が楽だ。普通に登山道を適当に下山した。

途中の「面平」は美しいところだった。易老渡からは同じように下山してきた人たちとともにタクシーへ乗り込み、ていしゃばへ運んでもらった。

 よい山行だった。行きたいところは尽きないが、一年に一度は何泊かで幽邃の沢旅をしたいものだ。

 

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面平。