隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

蔵王・振子沢

振子沢はよかった。すごくよかった。

長引いていた風邪の病み上がりで、行くなら天気も悪いし軽いところを、と思って、以前から行きたいなぁと思っていたこの蔵王の沢に来たが、本当に来てよかったなぁと感じ入っている。

なんでそんなによかったのだろう。それは全然シンプルなことだなー。沢登りという登山スタイルが、自然とダイレクトに触れ合える素晴らしさを与えてくれる、ということを改めて思い出させてくれたからだなー。というのも最近、今になって思えば自分は味気ない沢登りをしていた。まるでグレードだけを追いかけるスポーツクライミングのような、難易度や負荷度の数字だけで対象を評価し、行く行かないを検討するような沢登りをしていた気がする。そんな大層な腕前ではないというのに。9月はそんな感じで完全に行き詰まってしまったっけ。

濃霧に包まれた振子沢をのんびり歩き、美しい御釜を周回して、観光客でいっぱいの稜線にあがる・・、なんでもない沢登りのルートがとてもよくて、凝り固まった心が洗われた。振子沢が短くてさほど難しい箇所もなく、それでいて変化に富んでいる好ルートだったから、というのも大きいだろう。心にゆとりをもって、ただ自然の中で過ごすことができる幸せを、改めて深く、そして久しぶりに感じた。

手前勝手だが、振子沢は忘れられない沢になった。

 

車を停めた賽ノ磧から歩き出し、すぐ濁川へ着く。振子沢の出合いは、え、これ?と思うほどショボい。ボサの覆った小さな流れを期待せずに歩く。まわりは天気予報どおり本曇り。低層に厚くガスがたちこめ、視界が悪い。本来なら遠望できるであろう振子滝の様相はなんも見えない。

一つ目の振子滝は左岸のもろい壁を10mほど登り、その上の壁を右に多少きわどく巻いたあと、木登り。5分ほど藪漕ぎして落ち口に至った。あとになって右岸が簡単だと知ったが、左岸もさほど難しくはない。

二つ目の振子滝は左岸の踏み跡をたどり、滝芯が白くもやもやした空を舞っているのを左に見ながら落ち口に至った。視界が開けていれば、壮快な巻きだったことだろう。

その上部はさらにガスが濃くなり、アルペン的という岩稜帯はまったく見えない。ガスの向こうに消えて行く小さな流れを粛々と少し歩くと、すぐにミニゴルジュが現れる。もちろんガスの岩稜ではなく、ゴルジュのなかに入る。流れがある方がまだ視界的にマシだし、参考にさせていただいた記録では右岸の岩稜を歩いていくものが多かったので、水線がどんなものか興味もある。

内部には印象的な二つのトイ状の小滝があり、一つ目は難しくないが、二つ目がムーブがあってなかなか楽しい。たぶんボルダリングのバランス系な5級くらいかな。その後は小さな連瀑帯になり、びしょびしょになるのを避けるため微妙にバランシーなムーブで小滝を巻き気味に登ったりする。しかしあっという間にミニゴルジュ帯は終わり、真っ白なガスが覆う広い空間に出る。登るごとに視界は狭くなり、10〜15mといったところだ。

二俣っぽいところを、方角的に見て、御釜にそびえる五色岳のトップにダイレクトに詰め上げて行けるように思えた左に入る。すぐに水は消えて行き、火山灰や火山礫が堆積した荒れた斜面になり、多少の時間粛々と登る。斜面は特徴もなく、どちらを見渡しても同じような火山の堆積が四方に伸びており、濃霧もあいまって自分がどこにいるか地形図を取り出してみてもイマイチ掴めない。五色岳のトップに立って御釜を見たい、と思ってはいたが、視界10mほどでこの単調な斜面をピンポイントでトップまで進んでいくのは僕の読図力では無理そうだ。それ以前にガスで御釜はなんも見えないだろうし。

少し休憩し、どうするか考える。振子沢はすでに源頭だったので、その本流筋にはもう戻らなくてよい。とすれば、この眼前に連なる火山のお山を縦走(?)して、南側の濁川へ下りたうえで、御釜に向かおうかと考える。

コンパスをあわせて歩いて行くと、谷側が馬の背状といった感じの崩壊した地層になり、ガスの下に一気に切れ落ちている。おそらく地形図上で250mほど南北に真っ直ぐ走っている崖のところと思われたが、ホントにこんなとこ歩いて行っていいの?!と一瞬とまどう。しばらく慎重に歩くと、視界が悪いながらも尾根状に乗ったことがわかり、少し安心する。この火山灰と火山礫でできた尾根の縦走(?)はすぐ終わりを迎え、進んでいくと左右に分かれて下っている。はじめ大きそうに見えた右を下りてみたが、すぐに崖状に崩壊しており危険。戻って左を下りるとすぐに尾根は広くなっていき、岩場っぽい箇所を通過したときに足跡を数か所発見、たぶんこれで問題ないと思うことができた。どんどん下って行き、沢の音が強くなり、ガスの向こうにうっすらと水の流れを見つけ、濁川に下り立つことができた。

濁川は振子沢と異なり、いかにも火山帯をえぐって流れる沢といった様相で、まったく異なる味わいがある。温泉を取水している設備もみられる。濁川としては20分ほど歩いただけであるが、ガスが晴れてきて気持ちも上がる。昼前から天気が好転する予想もしてはいたが、標高を下げ、温泉が湧出しているから、というのもあるだろう。御釜までの行程では、崩壊した両岸が立ち、そのなかを温泉成分で侵食されている2つの小滝の通過がある。いずれも通過に困難はないが、上流側の小滝のほうが難しい。小滝を過ぎると視界は開け、刈田岳方面と熊野岳方面とを結ぶ稜線に囲まれたパノラマ的空間が広がる。

すぐに御釜方面へ、かつての散策路の踏み跡が伸びているのが見つけられる。ようやく御釜に着き、御釜を見たら、なにやら微妙に感動した。御釜を見ながらゆっくりと水際の方まで歩き、対岸の五色岳をみる。五色岳からスパッと崩壊した斜面が御釜に落ちている。視界10mの濃霧の中、あれのヘリを歩くのはちょっと怖そうだから、やはり無理にあそこまで行こうとしなくてよかったのだと思う。おかげで濁川にも行けたし、ドラマチックにガスも晴れ、御釜までたどり着けた。とにかくゆっくりしよう。腰を下ろしてサンドイッチを食べながら、御釜がかつての噴火口で、今はエメラルドグリーンの水を周囲300m、深さ35mで湛えている様を、無心で見つめてみる。後ろは登山道が通った稜線に囲まれ、観光客の嬌声がときおり聞こえてくるが、なにも気にならない。なんだかよくわからないが、自分だけの世界に浸ってボーっとした。

天気がいつまでもつのかわからなかったので、しばらくして歩き出し、振子沢の本流の詰めである1600mの鞍部へ進み、ハーネスやヘルメットなどギアを全てザックにしまって普通の登山者スタイルにお着がえし、鞍部から北西へ伸びる尾根道を拾って稜線に上がる。途中でにわかにガスがもやもやし、御釜が幻想的な装いとなるのを見れた。しかし天気はそれ以降結局悪くはならず、むしろさらに良くなっていった。

観光客でにぎわう登山道を主峰の熊野岳まで歩き、沢靴にたまった砂をやっと抜いて、満ち足りた気分で御釜を望む。さきほどは目の前で左回りして歩いた御釜を、今度は高いところから見ながら右回りで歩く。二度楽しめる。日差しもいい感じになってきて、今朝の本曇りがうそのようだ。刈田岳を過ぎて大黒天登山口へ下山する道中では、御釜に別れを告げ、濃霧の中歩いた五色岳背部の火山灰・礫のお山が眼前になる。なるほど、あそこにいたときはガスでわからなかったが、あのへんを歩いたんだ、と合点がいく。お山の下流側は大規模に崩壊していて、そっちに迷い込んだりしなくてよかった。割ときちんといいところを歩いたんだなぁ、と思う。大黒天登山口からは車がビュンビュンしていて怖い林道を歩き、途中で「蔵王古道」というのを見つけ、その登山道的に整備された古道を賽ノ磧まで下った。

楽しい一日だった。

 

 

 

 遊歩道から濁川を見下ろす

 

振子沢の序盤はボサの覆った小さな沢

 

たまに感じのよいところも

 

一つ目の振子滝

 

巻きの途中で

 

藪を軽くこいでピンポイントで落ち口に

 

上部はさらにガスが濃くなる

 

二つ目の振子滝

 

 巻きながら、左にガスの中を落ちていく滝を見る

 

落ち口

 

 

 

ミニゴルジュの始まり。最初の小滝は突っ張りで。フリクションはよい

 

この二つ目の小滝が悪めで、ボルダリングで5級くらい?面白かった

 

軽い連爆帯の様相

 

びしょびしょになりそうだったので右側を上がって、巻き気味に抜けた

 

 

 

バーッと光景が広がるところと思うが、ガスで何も見えず

 

 

 

本流からそれて左俣方面へ進んだ

 

特徴のない斜面とガスで現在地がよくわからず

 

 

 

五色岳の尾根

 

眼下に濁川が見えて、ちょっとホッとした

 

濁川

 

 

 

温泉成分でか面白く侵食されている

 

一つ目の小滝

 

崩壊した両岸が立っている

 

二つ目の小滝はⅣ級マイナスくらい?

 

主峰へ向かう稜線が見えてくる

 

御釜の周囲に付けられた踏み跡

 

御釜。印象的なエメラルドグリーン

 

 

 

御釜のほとりで

 

背後にはパノラマ的

 

ルンゼ手前に大滝があった

 

 

 

右が1600m鞍部、左のスカイラインが稜線に上がる尾根道

 

尾根道はペンキもあり登山道だったようだ

 

途中で御釜にガスがもやもや立ちこめ、幻想的な様相に

 

主峰

 

帰りの稜線歩きで、再度御釜を見ながら。ぐるりと

 

 

 

 

 

 

 

御釜に別れを

 

下降した斜面

 

濁川と五色岳の裏のお山

 

お山は大規模に崩壊している

 

林道に

 

蔵王古道を見つけてあるけば、林道をある程度歩かなくてすんだ

 

 

 

賽ノ磧駐車場(8:20)~振子沢出合い(9:00)~振子滝下段(9:15)~振子滝上段(9:50)~五色岳の手前1550~1600m?(10:50)~濁川(11:55)~御釜(12:15)~1600m鞍部(12:45)~稜線(13:30)~熊野岳(14:00)~刈田岳(14:40)~大黒天登山口(15:20)~賽ノ磧駐車場(15:50)

 

GPSは持っていなかったので多分だが、こんな感じ↓の軌道だったと思う。