隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

奥秩父・和名倉沢

秩父 大洞川 和名倉沢(1090mで中退)の日記

 

 

最近、あまり山を歩いていないので体力の低下を感じる。冬に体力作りと思って、近場でトレランの真似事や、重荷を背負って踏み台昇降をやってみたのに、これだ。そこで沢山歩ける沢に行こうと思い、以前から行きたいなぁと思っていたこの和名倉沢である。時期は新緑で美しいに決まっているし、いろいろな記録やガイドを見ても、深山とか幽玄とか、これは行くしかないと思わせる文句の目白押しだ。荒川の源流筋では、以前に行った豆焼沢がお気に入りだが、それを上回る美しい沢だとよい。などと想像をたくましくして、向かった。

 

278号線から雲取林道に入ってすぐの右側が駐車スペースになっている。そこに停めて、少し278号線を下り、下の写真のところから踏み跡が沢のほうに伸びている。道路から和名倉沢の谷間がはっきり見えるので、そこで位置を確認しておくとよいと思う。踏み跡は小尾根を下り、左へ方向を変え吊り橋へ向かう。

吊り橋は老朽化のため通行禁止になっている。対岸では踏み跡は2手に分かれており、左へまっすぐ歩いていくと手戸沢のほうへ行ってしまう。右へ曲がり、小尾根を乗越す形で和名倉沢へ導かれる。

入渓した。

はげしくぬめっている。ステルス信者である自分も、フェルトを履いてこなかったことを軽く後悔した。そして一度植生が破壊されてしまった山だからか、両岸の斜面はぐずぐずで歩きにくい。釣り師用?かと思われたピンクテープがおおむね左岸側斜面にえんえんと続いていたが、それとてそんなに歩きやすくはない。沢床はむろんぬるぬるしていて、あまり早くは歩けない。あー、そうだ、こんな感じだったんだっけ、このあたりは・・。と今更ながら思い出し、慎重に歩いた。滝はほとんど何も考えずに巻いた。

弁天滝13mである。何も考えずに右から巻いた。

その上部だったと思うが、川原状で癒しポイントな感じとなっていた。魚影は見なかったが、心落ち着くとこだったなぁ。

これは小ゴルジュの120でいう③の6m・8mだったかな?何も考えずに巻いた。

その上部でも絶好のテン場・・と思いきや、張り綱の残置はいただけませんな。えんえんと続くピンクテープといい、興ざめである。

氷谷。なかなか美しい滝で出合っている。

そのあとも小滝がいくつか出てきて、登ったのもあったような気もするが、だいたい巻いたと思う。とにかく今日はぬめっているところが歩きにくくて、ちょっとでもスリップしそうだと君子危うきに近寄らずモードである。なにしろピンクテープが、どうぞこちらへ、と言っている。ついつい沢を歩かずに、斜面のピンクテープはどこだ、次はどこだ、となってしまった。いったい何をしにきたのか? そりゃ沢を歩きに・・・、いや、新緑を楽しもうと思ってきたので、ピンクテープでも別にいいや。そう、なにしろ沢はぬめっていて転びそうだし。しかしながら、一応沢登りだし、沢をやはり歩こう。そして、ついに滑って岩と岩の溝に落ちて、肘を打ち付けた。いや、滑ったが、水流にまかれるのを防ぐため肘を岩に打ち付けて、体を止めたのだ。いてー。しかし当て所がよかったのか、肘も含めて無傷。もうダメだ今日は。巻き巻きで行きましょう。

通ラズの入口の滝である。なかなかの水量で、今日はちょっと増水気味なのでは、と思う。むろん巻く。巻きは右岸からで、ピンクテープがいざなってくれるままに、登ればよい。途中では通ラズの滝見台もあり、ハイキング気分である。通ラズはゴルジュと記載されているが、側壁が立っているわけではなく、連瀑帯といったほうがしっくりくる気がする。

滝見台、というほどテラスみたいになっているわけではないが・・、そこから通ラズを見た。水の流れが綺麗だなぁ。今日は少し霧がかかっているので、多めの水量と相まって、なおいい感じに見える。

通ラズの巻き道はロープも設置されている。しかし、劣化の具合などは分からないので、安易に体重をかけず、慎重に通過したほうがよい。1~2歩ほど足場が悪い。

大滝が見えてきた。

和名倉沢大滝40mである。真っ白な奔流が中段でひょんぐって落ちており、圧巻である。真正面では雨のように水しぶきが激しく当たるので、とりあえず雨具を着て、軽く休憩タイムに突入である。パンを食べながら、今日の行動予定をあらためておさらいすると、どうも時間的に遅れているような気がする。大滝の上の船小屋窪あたりで大休止するつもりであったので、そこで検討しようと考え、濡れた雨具をしまってそそくさと出発した。

大滝は左岸のルンゼから巻く。もろいルンゼを一直線にある程度登って、左にトラバースでもよいが、ルンゼを登ってすぐに右の小尾根に上がるとピンクテープがある。トラバースするのはどちらも同じなので、どちらでもよいだろう。ルンゼは毎年崩壊しているだろうから、その間はテープはない。トラバースを始める箇所からはピンクではなく、青やオレンジのテープが張られているので、それを追えばよいだろう。テープを追わなくてもトラバースは可能と思うが、低めにトラバースするとかなり悪くなるので、注意が必要である。下の写真はルンゼから大滝を振り返ったところである。

沢に戻ると感じのよい光景が広がる。ただし、ぬるぬるである。

船小屋窪。右岸に大きな滝で出合う支流である。

その上の右岸側は平らかな台地状となっていて、最高のテン場である。非常に広く、百人でも二百人でも泊まれそうだ。他にパーティがいても、少し離れたところにも平らに張れる。それくらい広い。感じもよい。泊まりで和名倉沢に来るなら、絶対ここで泊まるだろう。きっとよい思い出が作れる。

と、そのテン場をすぎて少し行ったところで、大休止にした。時間は10時40分。どうやら時間的に遅い。いや実際はそれほど遅いわけではなかったのだが、ぬるぬるで慎重に歩いたため少々お疲れモードであり、それゆえに、すごく遅く感じたのだった。入渓が7時20分くらいだったので、3時間半かかっている。この分では山頂へ抜けて下山したら、日没を過ぎるだろう。また、120の言う1470mくらいから左岸を登って二瀬尾根に出るショートカットをしても、日没近くなるだろう。なにより頑張って歩かねばならん。そんなのは日帰りするには長めの沢なのだから、当たり前のことであるが、今日は気がつけば早めに帰りたいモードである。この1090m地点から上部は比較的斜度が増し、より登り基調になっていくと思われたので、スピードは間違いなく上がらないだろう。さて、どうしようか。いや、とりあえず、大休止だ。パンを食べながらボーっとした。

朝から少々霧がかった曇りだったが、お昼になり、ようやく晴れの天気となって、日差しが沢を照らし出してくれた。苔や新緑が日の光でとっても美しい。それをボーっとしながら見ていると、もう十分満足した自分を発見した。体力低下を感じて沢山歩こうと思ってきたが、本音は綺麗な新緑の沢でのんびり過ごしたかったらしい。パンに続き、おにぎりを食べながら、もはや一番早い下山を検討していた。検討するまでもなく、来たルートを戻るのが圧倒的に早いので、そうすることにした。沢下降なら入渓点までどんなにゆっくり下りても3時間かそこらだろう。心に大きなゆとりもでき、さらにのんびりしてしまった。

30分くらいのんびりして、下山を開始した。来た道を戻るだけなのでラクなものだと思っていたが、さっき巻いた滝がどっち巻きだったか記憶喪失で分からなくなっており、幾度か右往左往した。下の写真は40m大滝の巻き終わりのテープである。

 今一度大滝とご対面である。霧がとれ、豪快な様子で水を落としている。

それからどんどん下山していったが、同じような渓相が続くので、どこがどこだかよく分からない。氷谷まではあっと言う間だったが、石津窪から入渓点までがやたらと長く感じた。おそらく疲れて集中力も切れ気味だったのだろう。目印としていた丈夫そうな人工橋があり、そこから間もなく入渓点付近に至った。それまでもちょこちょこ休憩していたが、ここで最後の大休止とした。小枝をワーッと集めてプチ焚火をしようとしたが、ライターを持っていなくて断念した。仕方ないので、無心になり新緑を眺め、時々顔にたかってくる羽虫を叩き落しながら、自然のなかにいられる幸せを静かに感じた。

計らずもお昼過ぎの中退下山となった和名倉沢。足を踏み入れたのは、行程のほとんど半分程度であったので、これでは和名倉沢に行ったとは言えないかもしれない。また、山頂付近にわずかに残るというシラビソの原生林を目にすることができなかったことだけは、残念である。 しかし、それでも結構楽しく、また美しかった。和名倉沢は、新緑と、ぬるぬると、大滝と、苔と、そして、ピンクテープの沢であった。

 

雲取林道スペース(7:00)~入渓(7:20)~弁天滝(7:55)~氷谷(8:50)~40m大滝(9:50)~船小屋窪(10:30)~1090m(10:40)~入渓点(13:50)~雲取林道スペース(14:30)