隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

谷川・笹穴沢

8/4 谷川 赤谷川・笹穴沢 単独

 

できれば平標山から渋沢林道のほうへ下山ではなく、久しぶりに谷川の尾根歩きもしたいと考えた。平標山から仙ノ倉山、エビス大黒の頭を経て、毛渡乗越から赤谷川への下山である。体重は増え、体力は低下している今日この頃ではあるが、今一度がんばりたい今日この頃でもある。長い行動時間にそなえて早起き必須である。机上の予定では、3時半に川古温泉出発であったが、それは空論に終わった。車中泊したみなかみの道の駅で3時すぎに起きた。支度して移動し、4時25分に川古温泉を歩き出した。

歩き出しはまだ薄闇のなかであったが、夏の快晴らしく、どんどん日が昇っていき辺りが明るくなった。1時間ほどで笹穴沢出合いに着き、少しだけ休憩して入渓した。

 

最初の小滝が3つ連なる小ゴルジュは、左岸の明瞭な踏み跡から巻いた。時間優先だし、いきなり濡れるのはちょっと・・、という普通の理由ではあったが、要は胸まで水につかるのを躊躇しただけなのである。

 

小ゴルジュを越えると6mの小滝を右岸から登り、あとは巨岩ゴーロをたんたんと歩き、小一時間ほどで金山沢との2俣についた。金山沢の沢筋のずっと向こうに、すこしだけエビス大黒の頭に伸びるゴツゴツとした山稜が遠望できた。

 

一か所、ぎりぎり足がつかないくらいと思われた淵があったが、右岸の踏み跡から巻いた。

 

2~3小滝を越えるとクロガネ岩峰が見えてきた。ちょうどこのあたりでは大量のトンボがゆらゆら飛び交っており、水面が朝日に反射して輝いているのも相まって、なにか懐かしいような、神秘的なような、日本昔話に出てきた一幕を思わせる、心落ち着く区間となった。

 

このへんから滝が増え、登攀的になってきたようである。ほどよい間隔で小滝が続き、どれも容易に登れる。また落ち口の上はナメになっているところも多く、笹穴沢に来たなぁと感ぜられるところであろう。

 

2段30m滝が見えてきた。

 

下段、上段とも右壁を登った。ぬめっていそうなところは見た目通りぬめっているので、気を付けて登った。これまでの小滝よりも高さはあるが、概してホールドは大きく、安定している。上段の落ち口からもナメが続いていた。

 

2段30m滝の上部も10mほどの小滝が続く。これまでの滝と同様、Ⅲ級かそれ未満程度のやさしいムーブでどんどん登った。こういった小滝の通過にどれくらいの時間を割くか、によって遡行時間が大幅に変わってくるのであろう。僕は単独だから相当早いはずである。

 

20m滝。左壁の乾いたところを登ったが、最近まで雪渓に埋まっていたのか、砂や小石などでじゃりじゃり汚れており、また一部スタンス・ホールドとも外傾していたりと、いままでより悪く感じた。なにより傾斜が強いのが、いままでの小滝と大きく異なるところだろう。ちょっと頑張りポイントである。

 

メインの50m滝。基部から見ると50mもないように見えるが、上部で角度を落として、ナメ滝がさらに続いている。フレークの積み重なりのような右壁を、水流に近づいていく感じで登るが、上部で水が近くなるとぬめって難しくなる。ハーケンもみられるので、このまま水流右を直上していくのがルートのようにも思われたが、フリーでこの高度をフリクションライミングするのはちょっと怖い。滝の傾斜がゆるむあたりで水流に出て、右から左に水流を渡った。水流スラブだがフリクションはよい。その後は水流左の乾いたところを登った。乾いたところはフリクションばっちりである。登攀的には高度感もあって、もっとも面白かった。上越の滝はこんなだなぁと思い出したように、思った。

 

下の写真は水流を渡ったくらいのところである。

 

50m滝上部もしばらくナメ滝状となっている。そして向こうに空から落ちてくるような、大きなナメの流れが遠望できる。

 

120m大ナメ。ここは絶好の休憩ポイントであろう。2俣になっていて、右俣が大ナメ、左俣はゆるい岩壁からちょろちょろと水が流れている。大ナメの上部は水流の両側壁が立っていて、まるで空から水が流れてくるように見えるのが、圧感であった。フリクションはどこもばっちりだからいいものだが、これがちょっとぬめっていたりしたら、かなり怖いフリクションライミングになったことだろう。バーっと登った。ふと、マチホド沢のスラブ滝を思い出した。

 

大ナメを登った後もナメが続いている。だいぶ稜線が近くなっており、そろそろ終わりが近い感を抱くところでもある。

 

ナメが終わり少し進むと、20mほどの滝。これは右壁の乾いたところを登り、落ち口まで笹を掴んでトラバースした。上部がちょっと悪かった気がするので、左壁のほうがよいのかもしれない。

 

小滝を越えると、最後の10m滝が遠望できる。10m滝を登って落ち口に至った時によくわかったが、10m滝は本当に最後の滝で、関所のような構えが印象に残った。

 

最後の10m滝。少し戻って右岸から巻くか、水流左奥の凹角を登って巻くか、のどちらかが一般的と思われたが、せっかくロープも持ってきたし、一回くらい使おうじゃないかと思って登ることにした。

 

水流右側は厳しそうだったので、左側にした。7~8mくらいのまったく見栄えしないラインではあるが、もし厳しかったら左の凹角に逃げればよい。登り出せば残置があるだろうと思ったが、まったく見当たらない。傾斜がほぼほぼ垂壁なので両手が離せるポイントが少なくて、ハーケンも打てない。一瞬、取り付いたことを後悔したが、掘り起こすと結構ホールドがある。支点はピナクルっぽく使えそうなガバホールドにスリングをかけて3点ほど作り、最後は笹を掴んで抜けた。

 

笹穴沢の美しいナメと簡単な小滝を堪能してきた、これまでの行程からすると、まったくもって取って付けたような登攀ではあったが、意外にこれはこれでよかった。垂壁のガバルートであった。ちなみに写真右側に少し映っているのが凹角で、これを登れば多分簡単に巻けるだろう。

 

10m滝の落ち口から上部は、そこからまるで別の沢に来たように、笹原を割って流れる源頭感いっぱいの詰めとなる。

 

1400mの2俣では、ひとたびはガイドブック通り左俣に入ってみたが、見た目的に水量が多かった右俣を歩きたい気持ちが捨てきれず、戻って、やはり右俣を進むことにした。左俣は平標山の南尾根に詰めあがるが、右俣は仙ノ倉への東尾根へ詰めあがる。いずれも平標山までわずかのところだ。時間や気持ちでどちらか選べばよいと思う。どちらでもよいのだ。

 

来し方を振り返ると、平標山ノ家が眼下になっていた。

 

左俣は行っていないので分からないが、右俣の詰めでは藪漕ぎはまったくなく、水はゆっくりと小さくなっていき、最後は笹原に消えていった。

 

平標山東側の休憩スペースがある1900コルに詰め上げ、平標山をピストンした。時間は12時前だったので、仙ノ倉山方面へ縦走してから下山するのに十分時間があり、ホッとした。さすがに今日のような快晴の国境稜線は登山者も多く、ヘルメットにGoProをつけてハーネスにジャラジャラぶらさげている自分は、場違い感満点で、異質の視線を浴びることとなった。夕方の誰もいない山頂に詰め上げて、時間に追われながら下山するほうがよかったかな。

 

仙ノ倉への稜線。情けないことに完全にシャリバテになってしまい、10歩歩いて休み・・のような状態になってしまった。朝おにぎり1個食べ、これまで行動食として、おにぎりをもう2個食べたのみ。残りは4本入りスティックパン1袋。仙ノ倉山の山頂で休憩しながら食べようと思って頑張ろうとしたが、もうとてつもなくヘロヘロになってしまって、途中の座れそうなところでガックリうなだれながらスティックパンを2本食べた。

 

仙ノ倉山から歩き出したところ。次にたどる屹立したエビス大黒の頭、そこから左奥に万太郎山、オジカ沢ノ頭。元気で車の回収の問題がなかったら、谷川岳までずーっと歩きたいところである。しばらくしてシャリバテは解消したが、スピードは上がらず、体感で昭文社マップくらいのスピードでのんびり歩いた。

 

エビス大黒の頭から、毛渡乗越のコル。そこから赤谷川本流まで一気に下る。

 

途中で赤谷川本谷の巨岩帯が見えた。

 

毛渡乗越からの登山道は刈り払われた笹で埋まっており、また傾斜も強いので、少々歩きにくいが、ルートは明瞭だ、30分ほどで半分下ってからは、トラバースして数本枝沢を渡った。水がからっぽだったので、枝沢でがぶ飲みした。それからまた降下し、エビス大黒沢の右岸から赤谷川渡渉点に至った。全部で1時間くらいであった。

 

渡渉点から笹穴沢との2俣までは踏み後は、一部崩れていたりで歩きずらい。それでも途中で枝を拾って杖にして、粛々と歩いて川古温泉に戻った。最後に1個だけとっておいた飴がとても美味しかった。18時半前に車に着いた。そして、久しぶりに湯テルメに行って汗を流して帰った。

 

笹穴沢は林道アプローチがあるなど、日帰りするには長めではあるが、谷川らしい岩々しい流程のなかに数多くの滝やナメをもち、ほとんどが困難なく登れるという、すばらしい沢であった。また、今回は平標山から国境稜線をすこし縦走することもでき、楽しさも倍増した。行動時間は14時間ほど、距離は24㎞ほどと長い1日となったが、荷を軽くしスピーディーに行動する練習にもなった。・・もっとも行動食も期せずして軽量化?してしまい、最後の尾根歩きではヘロヘロだったが。そして、たまたまなのか、時期的なものなのか、なんとも分からないが、赤谷川林道はヒルが多いと聞いたが、まったく見なかった。ラッキーであった。

 

川古温泉(4:25)~笹穴沢出合(5:35-5:50)~金山沢(6:40)~2段30m滝(7:50)~120mナメ滝下(8:50-9:10)~10m滝(9:50-10:20)~稜線コル(11:45)~平標山(11:55)~仙ノ倉山(12:50)~毛渡乗越(14:50-15:05)~赤谷川渡渉点(16:10)~川古温泉(18:20)

装備:ダブル30m、ハーケン薄刃3・アングル2、ビレイデバイス

 

さて、久しぶりにGoProを持ち出してみたので、笹穴沢の様子を残しておく。お暇な方はご覧になってください。

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