隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

北方稜線~チンネ左稜線~剱岳

with Wさん

7/13(晴れ→雨):黒部ダム~池ノ平小屋

7/14(雨):北方稜線~チンネ~剱岳本峰~剣山荘

7/15(雨→晴れ):室堂に下山

 

 

【1日目】

黒部ダム(7:50)~内蔵助平(10:30)~ハシゴ谷乗越(11:25)~2俣(12:45)~池ノ平小屋(15:00)

7:30の扇沢始発で黒部ダム。荷物分けなどして観光放水直下の黒部川に下り、登山道を歩き出した。内蔵助谷に入りしばらく歩くと、藪がちょっとうるさいガレの向こうに丸山東壁が見えた。あれも行きたいけどまだ機会に恵まれてないなぁ。

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内蔵助平に架かる橋で少し休憩し、ハシゴ谷乗越への沢筋の登山道。明るい涸れ沢の詰めみたいな感じ。
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ハシゴ谷乗越からの下りでは、正面に登り返す仙人尾根が。
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また、途中で左をみやると剱がその頂を奥ゆかしくも軽くガスに隠し、眼前に飛び込んできた。否応なしに気分も上がる。もっとも、今日は日中は天気はまぁまぁだが、夕方から雨が降り始め、明日は午前中は雨、午後にかけて小康状態に、といったイマイチすぎる天気予報なのだが。
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7月中旬の剱沢は大水量のいかにも雪渓の沢といった様相。
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2俣に架かる橋を渡り休憩をはさみ、仙人新道へ。ここはちょっとアブがうるさい。
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途中の見晴らしポイントで三ノ窓雪渓をみやる。今年は積雪量は低標高では少な目だが、3月にドカッと降った関係で高標高では多めらしいね。仙人新道の最後の登りではゆっくりめのペースを守りつつも、もう軽くヘロヘロ。ここ最近の太ももの攣り癖対策で、経口補水液で水分補給し、芍薬甘草湯を予防的に服用してきたからか、ヘロヘロながらも太ももはそれほど消耗せずに歩いてこれた気がするけど、真相はどうなんだろう。結局単にオーバーペースだっただけという気もする。
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仙人峠を経て池ノ平小屋。小屋下の池にもまだ雪渓がびっしりであった。本日が小屋開きとのことで、私たち2人は奇しくも最初で、そして今日唯一の客になった。山小屋にお世話になることはまずないスタイルで登山をしているけど、夜は雨と分かっていたから、軟弱な私たっての希望で小屋泊にしたのだった・・。ほかに客のいない小屋は実に快適で、なんとお風呂も入らせてもらった。しかしながら、テレビで天気予報を見ると、どうやら明日は終日雨の予報に変わったらしい。なんてこった。
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いっとき剱沢と逆側の小黒部谷の向こうへ沈む夕日が見れた。小黒部谷は2017年に増水敗退した沢なので、このように幻想的な夕日のもと再会することができて感動した。
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19時すぎに闇に包まれ行く八ツ峰を眺めたのを最後に、雨が本格的に降り始めすべて見えなくなった。明日は・・・、とりあえず3時起きということで、アマゾンプライムで途中まで見た映画を終わらせて寝に入った。こんなとき、予想外に天気がよくなったぜ!なんてことは起きないんだよなぁ。
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【2日目】

池ノ平小屋(4:55)~小窓(6:25)~小窓ノ王(9:00)~三ノ窓(9:25)~チンネ左稜線1p(10:40)~チンネの頭(14:45)~池ノ谷乗越(16:40)~剱岳本峰(18:05)~剣山荘(20:35)

朝起きてもしっかり雨だった。軽くうだうだしてWさんとどうしようか話したが、結局まずは予定どおり北方稜線を進んで、チンネを登らないならそのまま室堂まで下山してしまおう、ということになった。雨がすこし弱くなった5時前に出発した。
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鉱山道のトラバースから小窓雪渓。上部はガスに包まれ見えない。
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朝から軽くヘロヘロで歩いた。
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小窓で小休止。
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小窓から登山道を2~30分ほど進むと一つ目の雪渓の通過となった。ガスであまり視界がないため登り気味に雪渓をトラバースしていくと、稜線上の鞍部に登り詰めてしまった。岩稜通しで小窓ノ王に向かうのは難しいと思われたので、露出した岩稜沿いの雪渓をいったん下り、さらにトラバースし直した。雪渓は2回の通過と聞いていたが、今回はまだすべてつながっているようだった。
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小窓ノ王の岸壁が見えてきた。数mだけ登山道が露出している箇所があったが、それ以外はまだすべて雪渓の下だった。
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下部は雪渓を詰めた。Wさんは手前の岩稜を登りハイマツを縫って付けられた踏み跡を拾ったようだった。
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コルが見えるあたりで雪渓がなくなりガレになった。
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小窓ノ王のコルではやたら沢山の高山植物が咲き乱れており、梅雨時の雨模様も相まって、生命の誕生を感じるみたいな崇高な気分になった、一瞬。
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池ノ谷左俣と剱尾根のシルエットがわずかに見えた。剱尾根は今後の予定に入っているので、もっとじっくり眺めたかった風景だが仕方ないな。f:id:Kakuremino:20190719202935j:image

小窓ノ王から池ノ谷側の軽く雪渓が残った急ガレから発射台を下った。そこから三ノ窓側へトラバースするポイントでは結構厚めに雪渓が残っており、壁と雪渓との隙間を縫って進んだ。雪渓がもっと厚かったらここは結構悪くなると思われる。このあたりから圧巻の池ノ谷ガリーが見えるはずだったが、ガスでもちろん何も見えず。
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三ノ窓への登り。
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三ノ窓のすごい幕営適地。真っ平だ。いや~歴史を感じるなぁ、ここで何人寝たことだろう、と。しかし焚火跡にゴミの燃えカスが放置されているのはいただけませんね。燃やすならちゃんと燃やしきる、燃やしきれないなら持って帰る、これくらいのこともできないのかね。
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三ノ窓の雪渓からチンネのスカイラインを見やる。チンネに登るか、室堂にさっさと下山するか、今日下山したとしたら明日どこに行くか・・、すこしWさんと話したが結論が出ない。ここ三ノ窓についた時間は9時半前。ふと雨が上がり、大町のほうに光がさしているのが見えた。それでWさんのやる気スイッチが入ってしまい、やっぱり登攀もしたいからチンネ行こうよ、と言う。天気予報によると昼前後はすこし小康状態になるらしい。その隙にチンネをバーッと登ってしまえば、と。しかし、最近というもの君子危うきに近寄らずモードの私としては雨とガスの北方稜線だけでもお腹いっぱい状態であり、しかもそれに加え、おそらく一瞬の小康状態に過ぎず結局また雨になるであろうチンネに登るとは。正直気が進まない。しかし心のどこかでは、雨のチンネくらいならまだ許容範囲、と考えていたのも事実。だからここにいる。時間的には剱岳頂上を経たら間もなく日没になるだろうが、雨ガス夜でも時間をかけて慎重に歩けばまぁ大丈夫だろう。なによりWさんのやる気に押された。ついつい「行きましょう」と言ってしまった。
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一筆書きの登山が好きだが、ここは登攀の確実性をとって、妥協して要らない荷物は三ノ窓にデポした。言い出しっぺのWさんが池ノ谷ガリーを往復してピックアップしてくれる、という約束で。急いで準備して、取り付きに向けて三ノ窓雪渓を下り気味にトラバースした。
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取り付き付近はまだ雪渓に埋まっていた。
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やる気に満ちたWさんにトップバッターをお願いした。岩はびしょびしょでフリクションはそこまでよくない気がする。再び小雨になった。2p目からはしっかり雨だった。
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序盤のⅢ~Ⅳ級くらいの硬くて快適なフェースが終わり、リッジのピッチ。ガスで高度感はない。
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リッジの後はまたⅢ級くらいの、今度は少し脆いフェース。それからまたリッジ。
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核心の「鼻」はWさんがサクッと越えた。こっちもフォローでダラダラするわけにもいかないし、急いで登ったなぁ。
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最後の長いリッジのほうがむしろチンネ左稜線のハイライトかな。青空の下であれば最高のリッジクライミングになっただろう。リッジは楽しい。好き系。
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チンネの頭。私はえらく慎重に登ったので時間がかかったが、Wさんはえらく早かったので、差し引きゼロで4時間程度で登攀を終えた。
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普通に歩いて直下の稜線上の両岸が迫った窓状のコルまで下った。
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そこからWさんが50mロープ+長スリングなどをフィックスして池ノ谷ガリーへ下降して三ノ窓へ荷物をピックアップしに行った。私もいったん懸垂下降して池ノ谷ガリーの登路を確認してから、登り返してフィックスを回収し、懸垂25m×2pで池ノ谷ガリーへ再度下りた(支点は25mで2か所残置あり)。休憩も含めて1時間半くらい使った。f:id:Kakuremino:20190719200306j:image

Wさんと合流し池ノ谷乗越へ。最後はまた雪渓の登高になった。
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それからは全体に明瞭。稜線上の岩稜を登ったり剱沢側の踏み跡を巻いたりで歩いた。私ははっきり言ってヘロヘロである。ピッケルのある小ピーク。
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長次郎ノ頭付近から、うっすらシルエットが浮かぶ剱岳本峰。
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長次郎谷左俣の雪渓はコルから見下ろす限りばっちりつながっているように見えたが、ガスで視界がきかないので実際どうかよくわからない。f:id:Kakuremino:20190720215611j:image

それからヘロヘロ、というか出力が上がらない低調な感じで歩き続けて、先行していたWさんに遅れること数分?、18時すぎに、やーっと山頂に着いた。
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雨もガスも相変わらずだし、時間にも追われてすぐ下山開始した。18時半ごろカニのよこばいを通過し、それ以降も時々ルートをはずしてペイントを探したりしながら粛々と下山した。夜になるにつれ雨が強くなった。
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やっと剣山荘の明かりが見えてきた。間に合うなら、時間も遅くて迷惑がかかってしまうが、小屋に泊めさせてもらいたいなぁ。剱沢まで行く予定だったけど、その場合このとおりパンツまでずぶ濡れで雨中ビバークだから、ちょっとやだなぁ。
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結局20時半に剣山荘に着き、なんとか泊めさせてもらった。本当にありがたくて感謝。山小屋は偉大だなぁ。あー疲れた。しかし・・・、そうなんだよ、小屋に泊まらない一番大きな理由を思い出した。奥に寝ているおじさんのイビキがすごくて、ほとんど一睡もできずに朝を迎えた。疲れたというのになぁ。イビキの周波数は抗いがたい不快度で、この夜も気を紛らわせるためにアマゾンプライムを大音量で見ることになった。
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【3日目】

剣山荘(6:30)~室堂(9:30)

眠い。計画では別山から雄山にかけて縦走し、一ノ越から黒部平に下山の予定だったが、私にはもう無理。私だけ室堂に変更させてもらい、扇沢待ち合わせでWさんと別れた。約10年ぶりの室堂は、昨日が今日だったらいいのに、という晴れ。
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10年前と同様、疲れ切った体で、忌まわしい石段を一歩一歩あえぎながら登り、山行を締めくくった。f:id:Kakuremino:20190719202849j:image

帰りのアルペンルートで。余談だけど、黒部ダムでは毎回殉職者慰霊碑にお参りする。いち登山者として大事なことだと思ってる。「尊きみはしらに捧ぐ」
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総括、というか自分の現状が改めて分かったなぁ。ひどいタイムだった。早い話が、ちょっとしたことでヘロヘロになってしまいお山に集中しきれない。3月から例年どおりひどい花粉症で体調を崩したが、今年はなかなか体調がよくならず、4月からは保育園に通い出した息子からもお熱や風邪などももらい、さらに他の理由もあって体調不良だった。最近は少しマシになったが、本調子には正直のところ程遠い。山ではできるだけ自由でいたいと思っているけど、そうするだけの体力的素地が、なにより精神的余裕がない今日この頃。限界値が低くなっているのを如実に感じる・・。もうダメだ。

そんなわけでイケイケのWさんには迷惑をかけてしまった。ごめんね。雨のチンネくらいの山行は許容範囲だったけど、今回は自分があまり自信がもてる状態ではなかったね。これは一時的なものなのか、それともこれからずっとなのか。今後も自分と相談しながら細々とお山を登って、少しでもポジティブに次へとつないでいきたい、なんて思ってるけど、子育てサラリーマンクライマーはみんな次々脱落していくよね。私はどうかね。私は結局平凡かね。もう少し頑張りたい自分と平凡へ突入したい自分と、比重は分からないけど、どちらもいる。でもやっぱお山行きたいかな。誰しもが様々な条件を抱えながらお山に向かっているだろ。今までどおり細々と頑張るよりほかないですね。

 

最後に蛇足ながら念のため警告します。北方稜線を目指している登山者の方は数多くいることと思いますが、この記録は参考にしないでください。雨もそうですが、濃霧のなかの行動はとても危険です。

 

おわり