隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

西丹沢・東沢本棚沢

 

with Sさん、Yくん 

以前、丹沢行ったことない、という初々しい若者のYくんを初丹沢として連れて行ったのが、なんと寄沢の山ノ神渡ノ沢だった。我ながら完全に選択を誤ったと反省した。ちょっと触っただけで簡単に崩れていくボロボロの岩盤。申し訳程度にチョロチョロ流れる長雨の残滓。丹沢を誤解させてしまったに違いない。

それで丹沢といえば西丹沢でしょ、ということで、これまた私の独断で、3年前に雨天敗退したことがある東沢本棚沢にした。とても短い沢なので、登攀と森林浴を交互に繰り返すことになるだろう。ブナの新緑いっぱいの明るくて解放的な沢登りで、誤った丹沢像をポジティブなものにしてもらえるとよい。

 

・入渓まで

遡行図(丹沢の谷200ルート)の示すとおり、つつじ新道を少し登り、855へ伸びる東沢右岸尾根を赤ペイントを追って忠実に歩いた。しばらくの間、尾根からすぐ下をつつじ新道が並走しているのが見えた。855までダラダラとした登りでいきなりお疲れモードになったので、ギリギリまでつつじ新道を歩いてから尾根に上がればよかった、と思った。855からすぐに東沢林道に出て、20数分歩いて「え、まだ?」と思う頃、棚沢橋に着いた。歩くスピードにもよるが、駐車場から1~1時間半くらいか。
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・入渓

お仕度して棚沢橋から入渓した。最近丹沢に来るのは冬か早春が多かったので、新緑は実に久しぶり。いやぁブナって感じ。それに花崗岩のナメ。とっても気持ちよくて、いきなり休憩タイムに突入したくなるが、とりあえず歩いた。
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・10m滝

10分もかからず10m滝に着いた。なんか悪そうな雰囲気を出しているが、さっそくロープを出して私が登り出した。
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右壁を左上していく感じ。残置はあるが小カムくらいあれば安心か。下の写真あたりで左に2~3歩ほどトラバース。ホールドはさほど悪くないが、かなりヌメっているのでちょっと怖かった。Ⅳ+級か。この2~3歩が核心だろ。ちなみに私は単独山行が多いので、自分が登っている写真を見るのが新鮮である。Yくん、撮ってくれてアリガト。
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・本棚25m

なんと10m滝から10分歩くと、早くもメインの本棚に到着である。近い。そして水量がえらく少ない。さぁ休憩タイム。そして観察タイム。右壁にも残置ボルトがみられるようだが、どう考えても左壁ですね。そうしましょう。ここも私がロープを引いた。f:id:Kakuremino:20200607175050j:image

(下部~中間部)すごくヌメっているのでタワシ必携である。特に出だしはヌメりが激しい。右上カンテの末端から、フレーク状のホールドを使ってハイステップとマントリングの要領で直上し、中間部に達した。残置は出だしの1ヶ所のみだった。そこから上を見上げると、いずれかの選択を迫られることとなった。つまり、さらに直上するか、あるいは左に逃げ気味に登るか。直上はこれといったホールドはなく、フリクションを利かせたスラブクライミング・・、もちろん支点はとれない。左は乾いているし確実にぜんぜん簡単。うーむ。とりあえずランナウトに備え、1本バチバチにハーケンを決め、ホールドにしそうなところをタワシで全力で磨いた。そして、満を持して左に逃げた・・。まぁそういうものでしょう。

(中間部~上部)左側を登るとリングボルトが眼前に迫り、一片の迷いもなくクリップ。これで本棚登攀という、数多の登攀者を痺れさせてきた冒険的所業はゲレンデクライミングと化し、終わった感が漂った。が、ムーブ的にはここからが核心といえる。直上もできそうだったが、動く岩が多かったので却下。スタンスをタワシで磨き、水流のすぐ隣までかなり慎重なトラバース。そして、最近腰痛がひどい私にとっては微妙に決意が必要なバランシーなハイステップを一歩こなした。Ⅴ級くらいに感じたがどうか。立ち込むと、あとは乾いたのっぺり花崗岩をワーッと登るのみ。腐れ残置は無視して太い木でアンカーを作った。
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また自分が登っている写真。敗退した3年前も、今回も、「水流を横断」という発想はまったく生まれなかった・・・。またリングボルトは3年前金ぴかだったので、そのあたりで打たれたのだろう。
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フォローで登ってきたSさん。バチバチに決めたハーケンをなんとか抜いてくれた。残置を使ったのは出だしのハーケンと上部のリングボルトだったかな。
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・大岩まで

本棚登攀でお疲れモードとなり、本棚落ち口から歩いてすぐの3段15m滝は右巻きにした。
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トイ状。突っ張り。
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大岩の手前は右岸斜面からの倒木で軽く埋まっていた。
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・大岩

等高線が判然としない白黒コピーの遡行図しか見ていなかったので、ルートを誤認していた。つまり本流は左岸の涸れた棚だったが、涸れていてただの崖にしか見えず、その上に沢が続いているという認識が欠落していた。そのため何となく大岩のルンゼをどんどん登ればよいと思い込み、大岩自体も登れるようだが、せっかくなので沢登りらしくドロドロっぽいルンゼに進むことにしたのだった。ルンゼは結構悪い。ロープ出しておいてよかった、って感じ。
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ルンゼの出口あたりに何となく踏み跡っぽいのもあったが、さらに藪を登って行った。途中で右下に白いゴーロが見え、おや?と思い、誤りにうすうす気が付きながらも、安定したところまで結局45mほど登ってしまった。後続をビレイしながら正しいルートをやっと確認できた。念のためビレイ点からSさんにロープをさらに出してもらい、藪をトラバースし沢に復帰。無駄に2ピッチ出してしまった。そしてビレイ点では羽虫が大量にたかってきて、居心地は最悪だった。f:id:Kakuremino:20200607175127j:image

ようやく沢に戻れた。1時間ほど使ってしまった。
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・涸棚45m

5分も歩けば涸棚基部に到着。取り付きって感じ。休憩タイム。「錫杖の1ルンゼみたい!」とSさん。たしかに。どうですか? どっちでもいいですよ。というわけで、Sさんがロープを引いてくれることになった。
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乾いていて快適だなどと言いながら順調にロープを伸ばすSさん。岩壁の右側にそって登って行った。
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昼から天気が崩れる予報で、Sさんの登攀中、気温が少し下がり霧が出てきた。霞がかったなかのトップアウトはよい雰囲気でしたね。フォローで登ってみると、岩も硬くて不確定要素は少ないが、落ち口直下の最後のワンムーブが難しく、チョークが欲しくなるようなクライミングだった。そして・・・、出だしから新しい残置がものすごく多い。丹沢だとはいっても、これだけ残置だらけだとさすがに興ざめだな。が、上部はクラックぞいなのでカムがあると安心だろう。
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・2段15m

涸棚の落ち口からすぐに6mがあり、それを適当に越えると、最後の2段15m。Yくんがロープを引いてくれた。危なげないリードでよかった。遡行図はⅢ級だが、そんなに簡単ではなくⅣ級か。今日は雰囲気的にリードは全部私か?と思っていたが、Sさんにも、何よりYくんにもリードで登ってもらえて、とっても満足。
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・脱渓、詰め、山頂

2段15m落ち口から上方は、霧のなか緑に囲まれたゴーロがずっと伸びていた。これを詰めて山頂まで歩きたくなるが、天気悪化も心配だし、遡行図どおり左岸尾根をつつじ新道まで歩くことにした。
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イノシシっぽい獣の足跡が濃い尾根を歩くと、なんと15分かそこらでとつつじ新道の1410mベンチについた。30分くらい歩くかと思っていたが、ぜんぜんすぐだった。そこからは渋るSさんをYくんと2人で説得して、檜洞丸までピストン。いやぁ山頂まで行ってよかった。天気ももってくれた。尾瀬のような牧歌的な木道に心癒された。たぶん多くの人が山頂を割愛すると思うけど、個人的には心癒されてから下山したほうがよいと思うなぁ。
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檜洞丸1601m。下山はつつじ新道からウェルキャンプ西丹沢を経て、駐車場まで1時間半だった。先頭を歩いた私は腰痛もひどいし膝もガクガクで、もうヘロヘロの下山。後ろから元気なYくんとSさんが煽ってくるから、わりと頑張って歩いたんだよ。
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下山中、Sさんがお山のスイート&ビターの話をしてくれた。私も存じ上げているレジェンドな大先輩から聞いた話だった。・・お山はスイートなことだけじゃなくて、ビターなことも必要なんだ・・・、と。シンプルな話だが、思わず考えさせられた。ビター・・、足早に歩きながら、今までお山で冒してきた沢山の苦い経験を思い出さずにはいられなかった。そのなかには、今もきちんと向き合えていないものもある。今日のようなゲレンデ的な登攀と新緑の森林浴の沢登りはスイート目な感じだが、あー、そうだな、腰が痛くて、ご飯もいっぱい食べちゃって、体がキレてないのを痛感した点は多少ビターか。そんなのどうでもよい論点か。

Yくん今日はどうだった?と尋ねてみた。いやぁ、ビターでした・・。それを聞いて、ついついニヤニヤしてしまった。沢の不確定要素が強めの登攀は精神的に疲れる行為だが、この東沢本棚沢はどの登攀もほぼ真っすぐ上に登るラインなのでフォローは比較的安全だし、何といっても水量も少ないので登攀以外に難しさはない。それでここを選んだんだった。でも、慣れない濡れヌメり登攀でYくんはさぞ疲れたことだろう。よい経験になったらいいけど。あぁそうか、そういうビターな経験もよいかなと考え、ここを選んだのか。ひと回り以上年齢の離れた若者に、先輩面で講釈を垂れたくなる狭量な自分を感じた。なんとなく自分に対して黙れと思った。そうして、また自分のお山のビターな面に想いを馳せた。

 

 

西丹沢ビジターセンター(7:05)~棚沢橋(8:15)~本棚(9:30)~大岩(11:50)~45m涸棚(13:05)~2段15m終了(14:50)~つつじ新道1410ベンチ(15:25)~檜洞丸(15:45)~西丹沢ビジターセンター(17:15)

遡行図:丹沢の谷200ルート

装備:50mダブル×2、ハーケン・ハンマー、カムナッツ小さめ一式、クライミングシューズ

ルート☟

www.yamareco.com