隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

黒部川・小黒部谷~剱岳

with Junさん

8/29 番場島~ブナクラ谷~折尾谷下降~小黒部谷~780m適地

8/30 BP~下部ゴルジュ~上部ゴルジュ~1550m適地

8/31 BP~池ノ平小屋~北方稜線~剱岳~早月小屋

9/1 BP~番場島

装備:ダブルロープ50m(不使用)、フローティングロープ25m、ハーケン・ハンマー、カム小さめ6、アルミクランポン

ルート☟

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●8/29

番場島(7:20)~ブナクラ谷からブナクラ峠(10:20)~折尾谷下降から小黒部谷出合(14:40)~780m適地(16:00)

 

朝から暑い。 Junさんと荷物分けしようとして驚愕。あのぉ~、ザック、すげー重くないですか・・?(笑) 50mロープやガスはJunさんに分担してもらう予定だったが・・、黙って私が持つことにする。林道終点からブナクラ谷登山道へ。f:id:Kakuremino:20200910202937j:image

登山道は沢の傍流になっている箇所もあるので沢靴で歩く。
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粛々と歩いているとやがてブナクラ峠が見えてくる。
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直下はガレになる。
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ブナクラ峠。お地蔵様に挨拶して休憩。ずっと向こうのほうからチェーンソーの音が聞こえてくる。登山道の草刈りをしてくれているのだろう。ありがたいことです。
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ここから折尾谷へと下降。最初は、人の踏み跡ともただの流水溝ともつかない足元を、藪こぎしながら下る。
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途中でアジサイ(?)が咲いていてびっくり。
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沢筋はガレになるが、水流はなかなか出てこない。暑くて干からびそう。
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1060~1070mあたりでハングした大岩があった。ボルダリングならワールドクラス?
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大岩の下、1030mあたりでやっとこさ水が湧き出し、嬉々として水飲み休憩。暑いわ重いわで進行が遅くなってしまっており、すでに13時前。先を急ぐが・・。
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折尾谷は今まで行った沢で2番目の激ヌメリの沢床で、普通に歩くだけでムーンウォークしそうになるほど。私がモンベル、Junさんがウォーターテニーで、二人ともゴム靴だからより滑るのだろうが、フェルトでもこれは全然滑るだろうよ・・。そして水量があっと言う間に増えていき、渡渉も場所を選ぶほどに。おそるべし折尾谷。たった250mの標高を下げるのに2時間近くもかかってしまった。
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お疲れモードでふと向こうをみやると、おー! やっと小黒部谷の出合だ! わーい、と一時思うが・・。
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なんと!!! 小黒部谷と折尾谷は水量比ほぼ1:1。場所を選べば徒渉に困ることもないくらいだ。折尾谷の水量が予想よりずっと多かったのもあるが、小黒部谷との水量比は5:1とか4:1とかだと勝手に思っていた。水温も低くない。上流に出てくるであろう雪渓もおそらく規模がかなり小さいと思われた。
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正直、こりゃ失敗したかなぁ、と思っちまった。地形図を穴が開くほど見て、スケジュール上の妥協がありつつも、これが最善だと決めた計画だったけど、これじゃなかった・・、と一瞬で悟った。小黒部谷がはじまる黒部川本流との出合い、つまり欅平から入るべきだったな。絶対にそうすべきだったぜ! 欅平からこの折尾谷出合までの、標高差250m・距離3.5㎞くらいの区間こそが小黒部谷の本質だった・・・かも?と思ったわけ。下部大滝、見たかったな・・。

常々、沢はお山の血液のように考えていて、その「集水域」の様々な源頭から湧き出した血液がやがて一つの線に収斂していく姿はドラマチック・・なんて思っている。しかしながら、たぶん小黒部谷の一番ドラマチックなところをスルーしてしまったんだろうな、と。
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じくじく考えても仕方ないのでダラダラ歩き出す。それにしても折尾谷下降で疲れた。Junさんともども完全お疲れモード。ゴーロがしばらく続く感じなので、20~30分歩いて、780mあたりで早々に適地を見つけて幕にした。
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いいじゃん、てとこを見つけて寝んねのお支度をしたが・・、
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夜はとてつもない蚊の大群。まさに蚊の海。ツエルトのベンチレータを閉めたら酸欠で死にそうになり、若干開ける。・・無数の蚊が侵入してくる。すぐにツエルトの中も蚊の海となった。夜は断続的にしっかりとした降雨となり、お外に逃げられない。二人で半狂乱の最低の夜を過ごした。
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●8/30

BP(8:00)~1100m下部ゴルジュ(9:30-10:20)~白ハゲ支流出合(12:00)~1430m上部ゴルジュ(12:55-13:50)~大窓支流出合(14:10)~1550m適地(14:40)

 

最低の夜を過ごした翌朝は完全ぐったりであり、早起き早出はとてもできん。Junさんと二人ボコボコなった顔で、いつもどおり痕跡を消して、やっと出発・・。
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地形図のゴルジュ記号からは読み取れない、1時間半ほど山深い広大なゴーロ帯を歩いていると、次第に両岸が迫ってくるようになってくる。f:id:Kakuremino:20200910203215j:image

左岸は岸壁になり、右岸はまだ緑な感じ。1030mあたりで最初の6m滝。右岸から巻いた。
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滝の上は転石による小規模な連瀑帯のようになっている。左岸の岸壁から細い流れを落とす支沢を二つ、右岸からゴーロの支沢を一つ越えると、下部のゴルジュが眼前に迫ってくる。
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ゴルジュ入口は5m滝。右岸からⅢ級程度で登り、コミュニケーションがとれる範囲で短く切る。
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続いて2m滝。右岸をそのままトラバース。
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2条3m。右岸をさらに伸ばす。
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1m、その奥に4m。
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4mは左岸から。Ⅲ級の範疇だけど、荷物が重くて乗り込みに少し苦労した。
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その後は、転石で出来た2m・2mを越えるとゴルジュが終わり、1160mで左俣に支流を分ける。
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休憩し、またゴーロ状となった沢を歩くと、ゴーロの石がやたら多くなる。左岸の小岩峰が派手に崩壊しており巨岩帯となる。思えば小黒部谷は北方稜線の崩壊によって形作られているような感じだ。
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小規模ながら右岸の斜面も崩落している。
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どうやってあそこの上に乗ったのかなぁ。
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20m級の転石で出来たせき止め滝はなかなか圧巻の光景。
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地形図にも明示されている1289mで右俣に赤ハゲからの支流を分ける。
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赤ハゲ支流を分けると沢床のゴーロがやたら赤くなり、すぐにまた右俣に白ハゲからの支流が見えてくる。
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白ハゲからの支流の出合は滝になっており15mくらいか。
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ちょうどこの二俣から池ノ平小屋のコルがよく見通せる。ここから見ていると2~3時間もあれば行けそうな気になる。
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小さな雪渓の残骸がちらほらし出し、1430mから上部ゴルジュとなる。下部の黒っぽいゴルジュと異なり、上部は白くて明るい。普段は雪渓の下だからだろう。
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最初は5m。左岸からⅢ級程度だが念のためロープを出す。乗越しで、のっぺりした岩の面を流れる水流に左手をプッシュする必要があり、冷たい!
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左手をついたところから、次の滝を見やる。次は2m・5m。左岸から登り未満。
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2条1m。ちょっと渋いが左岸をトラバース。その奥は右に直角コーナー。
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6mになる。水量が多いと取り付くのがかなり大変な感じだが、水流中の岩を使ってギリギリ泳ぐこともなく取り付けた。
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右岸の凹角を登った。Ⅳ級-くらいかなぁ。小カムがよく使える。上部ゴルジュの最深部といった感じ。滝上で今度は左に直角コーナー。
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谷が広くなり4m。右端コーナーを容易に登る。
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その奥は転石で出来たっぽい連瀑状を進み、
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最後に4mCSを左岸から越えるとゴルジュは終わりになる。
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1525m、大窓からの支流との二俣。な、なんと水量は1:2で大窓側が多い。雪渓の残量ということか。時間は14時をまわり、お空はガス模様。
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どうやらガスは強まる一方。この先に出てくるであろう雪渓処理をこのガスの中行うのはちょっと危険なので、適地を探しながら歩く。すぐ適地は見つかり、空身になってまずは雪渓の偵察に行った。
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1660mあたりから雪渓が口を広げている。うーむ。視界は10mもない。今日中に詰め上げたかったが・・・、仕方ない。すごすごと戻り、幕にする。
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1550mあたりで見つけたこの適地はかなり平らだったが、Junさんから、 ここはちょっとダメですね!とものいいがつく。沢から離れすぎていて沢の空気の流れがない。ということは・・。Junさんと私という闖入者を、連中がさっそくお出迎えにブンブン飛んできやがる! くそー、今晩は絶対に蚊がいない夜にしたいぜ! 移動だ!
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というわけで二人で血眼でマシなとこを探して、すごい整地を頑張ってここにした。雪渓からの冷気が滔々と流れてくるので、夜少々寒いと思うけど、蚊は大丈夫だろ。教訓を生かしてよい夜になった。わずかながら21時ごろ月も見えた。
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●8/31

BP(6:30)~1660m雪渓(6:55)~1730m付近三俣(7:25)~池ノ平小屋(9:15-10:00)~剱岳(17:00-18:00)~早月小屋(20:30)

 

昨日ガスで見通せなかった大窓が見えたので、一枚撮って出発。
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1660mから雪渓。
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粛々と登り、1730m付近と思われる三俣。右俣は池ノ平山へと消えていく。正直右俣を選びたいところではあったが、安全をとって池ノ平小屋へ伸びる中俣へ。
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ほどなく雪渓は崩壊を迎え、雪塊で埋まる沢床を歩く。
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その後はⅡ~Ⅲ級程度のボロボロの小滝群から流水溝登りが延々と続く。1880mあたりでまた三俣になり、中俣へ。そこで水が消えた。と、昔のゴミ・・茶碗とか缶とかが目に付くようになる。かつて小屋から流出したのだろう。
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地形図では池ノ平小屋まで真っすぐ伸びているように見えた沢筋だが、最後は左によれるようだ。2030mあたりで小屋と同標高になっていることに気づき、トラバースできないか探る。うっすらと藪に踏み跡の雰囲気を感じて入ると、うすい踏み跡になっている。そしてゴミがめちゃくちゃ散乱している。それをたどってトラバースすると・・、
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池ノ平小屋にダイレクトに向かっている。ちなみに踏み跡は薄いながらも源頭では各所に確認できた。昔の登山道の跡なのかなぁ。
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テント場から池ノ平山を見やる。小黒部谷の小さな旅はこのようにして終わった。
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池ノ平小屋で小一時間お休み。山行に区切りがついた感が強く、ここからは消化試合だ。消化試合にしては長い長い行程だが・・。正直ポジティブになるのが難しいが、もう一度、気持ちを作り直す。Junさんは珍しく疲れ切っている。頑張りましょう、声をかける。出発し、小窓雪渓までは頑張ったが、あとは牛歩・・。Junはどうやら沢水でお腹を壊してしまったらしい。荷物を分担する。頑張りましょう、声をかけフォローする。
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八ツ峰を見下ろすランプの魔人。
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7時間もかけてようやく剱岳本峰。不安定な大気具合で、富山側は濃い雲海の上に輝く太陽。むろん普通の登山から時間軸が大きくズレているので人もおらず、いつもどおり最高の山頂。剱やっぱ来てよかったじゃん、なんて思ってしまった。あと1時間半くらいで陽が沈みそうなので、夕日を見てから下山するか、山頂ビバークしませんか、とJunさんに提案してみたが、あえなく却下・・笑。そりゃそうですね。ところで山頂の岩の隙間からネズミ(?)のような小動物が顔を出してきて、びっくり。
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夕闇迫るなか早月尾根を下る。
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しばしば足を止め夕日に見入る。あとは暗くなった登山道を早月小屋まで下り幕。
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●9/1

BP(6:40)~馬場島(10:00)

 

Junさんの体調もいくぶんかよくなり、バーッと歩いて下山。4日間の登山を終わりにした。
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・・・

小黒部谷に入渓したときから分かっていたことだが、池ノ平小屋についたら山行に完全に区切りがついていて、二人、終わった感満載で疲れてしまった。ここから北方稜線を歩いて剱へ・・・? いやぁ、はっきり言って消化試合には長すぎる行程だなぁ・・。

小黒部谷遡行にあたって、アプローチを「欅平in/out」ではなく「馬場島in/out」にしたのは、単に剱岳を登山の区切りにしたかったからである。欅平から出発だと、剱岳を経たあと、剱沢から仙人新道を登り返して雲切新道を降りて下ノ廊下を下降、となり日程面から現実的ではない。馬場島からにすれば小黒部谷は途中からの入渓になるけど、無理なく剱に行け、下山できると思ったのだ。(車なので、起点に戻る必要があり、登山はその前提でいつも考えている。)

要は計画は小黒部谷遡行がメインとしつつも、実際は剱ありきだった。

そして剱ありきなのに、剱は消化試合になってしまった。

 

折尾谷から小黒部谷に入渓したとき、周りの地形を眺めまわしてから、地形図を改めて見て、いろいろなことに気が付いた。

やっぱり出合いは大切にしたかったぁ・・。始まるべきは、欅平からの出合いだったなぁ。そして終わるべきは・・。小黒部谷は、左岸の北方稜線の影響をより強く受けた渓流なので、北方稜線のどれかの源頭で終わるのが自然だった。その源頭は池ノ平山である。正直、そこで終わりでよかったかな・・。

つまり、「出合いから集水域のどれかのピークまで」がひとつの登山で、その範囲でどう登るかをシンプルに考えればよかった。今回の場合だったら、欅平から入渓して本流遡行し、池ノ平山直下の傍流に入って、あまり危なくならない程度にもろ壁の登攀を経て、最後に稜線登山で池ノ平山山頂。下降は雲切新道から下ノ廊下。「小黒部谷から池ノ平山」というシンプルなルート。

「小黒部谷の途中から北方稜線を経て剱岳」は悪くはないルートだったが、 小黒部谷に出合いから入れないのなら、それにこだわるほどではなかった、ということである。もともと出合い~集水域のピークという登山が好きで実行してきたが、今回はスケジュール面から妥協してしまった。そこは妥協してはいかんところだった。

 

折尾谷と小黒部谷の出合いで休憩しながら、このようにいろいろ妄想が駆け巡ったのだった。思わずJunさんに「やっぱり池ノ平から下ノ廊下を下りて、欅平からもう一回小黒部谷入りません? 折尾谷を登り返さないといけないですが・・」と愚にもつかぬ提案をして、即座に自分もJunさんも却下。

もちろん、これらは私個人が自分の山行に何を求めるか、の話であり、それ以上でもそれ以下でもない。登山論とかそんなものじゃない。

そうだな、自分がどんな登山がしたいか、分かっていたつもりだったが、改めてちゃんと分かったような気がするなぁ。