隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

表丹沢 山ノ神渡ノ沢大滝・清兵衛ノ沢大滝

表丹沢・寄沢流域 山ノ神渡ノ沢大滝・清兵衛ノ沢大滝

with Oさん

 

沢登りの大家である溝江氏の足跡を追ってみた。もっとも寄沢は表丹沢のなかでも特に脆いと聞くので、実際に登れるのかどうかはわからない。登った、という記録も見ないし、空振りに終わる可能性もあったが、そのときはイイハシ大滝を登ればよいと考えていた。いずれにしてもボロボロな棚であるのは間違いないだろう。こういった種類の山行をご一緒できるのは、似たような志向で自分より遥かに経験豊富なOさんくらいのものだ。たまたまご一緒できることになり、ふとこの足跡を追う小さな沢旅を思い出して、実行することができた。

 

山ノ神渡ノ沢の出合いはわずかに水が流れている、小さなものだ。はじめ気づかずに通り過ぎてしまった。

出合いからすぐに水は消え涸れ沢となる。表丹沢らしい脆い形状ではあるが、沢床はえぐられたようにU字っぽく侵食されている。数mの涸れ棚を2~3巻いたり登ったりすると、すぐに大滝が現れた。むろん大滝とはいっても、涸れ棚だが。

山ノ神渡ノ沢大滝・下段20m。下部は本当にボロボロで、一見しっかりとしてるような大きめのスタンスも、体重をかけると簡単に崩れてしまう。真ん中あたりは特に脆かったので、少し悪いが右から登り出し、フレークが重なっているような下部を抜けた後は、流水溝状の真ん中を登った。上部は下部と比較すれば割と安定している。それなりに緊張はするが、クライミング自体は難しくなく、Ⅲ級の範疇だろう。

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同、上段40m。滝というか、涸れ棚だが、言われなければ通り過ぎてしまいそうだ。降雨時に水が流れるであろう範囲だけちょっときれいになっていて、一応滝の様相をぎりぎり留めている。15mほどのところがテラス状になっているのが見え、そこを境に上部は意外に安定していそうに見えるが、下部は浮き石が積み重なってできているような様相だ。これは取り付いたものだろうか、とOさんと顔を見合わせた。下段を僕が登ったので、順番的にはOさんだが、予想していたよりだいぶボロボロなので、無理に登らなくてもよい気もした。しかし、ボロ壁スキルの非常に高いクライマーのOさんは、登り出した。

テラスまでの下部15mでは、当然ながらプロテクションはとれないので、僕はとりあえず地面に転がっている石をどかして軽く整地して、形だけながらスポットした。Oさんは安定している岩をよく吟味して選び登り、テラス状に達してからは残置ハーケンもみられたようだ。フォローで登ってみると、浮石だらけとみられた下部は、下段20mの下部よりかはマシだった。しかし、リードで登るとなるとプロテクションがとれないため、精神的な強さが相当に求められるだろう。テラス状に上がり、そこからは普通に安定していた。ビレイしているときは見えなかったが、上部は角度を下げてさらに流水溝が続いており、たしかに40mの距離を感じさせた。総じて下段よりは上段のほうがやや脆くなく、一方でやや難しくてⅣ級+くらいであろうか。

 

山ノ神渡ノ沢を下降して、対岸の若干だけ下流側にある清兵衛ノ沢に入った。出合いから大きな堰堤が見える。堰堤は4つあり、どれも右岸から越えた。沢から堰堤を巻くというよりも、最初からほとんど沢筋は歩かず、右岸側の踏み跡を歩いて行った。

4つ目の小さめの堰堤を越える前から、清兵衛ノ沢大滝が見えた。「清兵衛ノ沢大滝」は、最近出版されヘビーユーズさせていただいている「丹沢の谷200ルート」では、「清兵衛ノ崖」と記載されているが、どちらが正しいのだろう。溝江氏の記録では「大滝」だったので、ここではそれに倣ってみた。4段構成ということだが、ここからは全体像が見えないのでわからない。

前衛(4段目)の小悪い小滝を登ると、円形状にえぐられたメインの滝の基部である。ここから見上げると水流の両岸ともボロボロで、どうしたものかと思った。試しに斜度の低い右壁を軽く登って偵察してみたが、その最中にもスタンスが崩れたりして、これはちょっと無いなぁと思った。あきらかに運次第になりそうだったので、直登は止めにする。こんなところで必要以上の危険をおかしても仕方ない。

少し戻って見渡すと、右岸の露石帯がまっすぐめに伸びているので、これを使って滝上まで登ってみることにした。途中まではザックを背負っていたが、ロープも出していないので、適当なところでザックを置いて空身になった。露石帯はおもしろくはないが、立木をつないで快適に登れる。最上段とみられる滝を鑑賞して、さらに露石帯を登ると、赤テープが貼ってある仕事道らしき踏み跡に出たので、そこで終わりにして、踏み跡を下降した。

 

時間は昼過ぎだったが、清兵衛ノ沢出合いで少しのんびりした。当初は山ノ神渡ノ沢大滝、清兵衛ノ沢大滝の2本に続いて、菰吊沢奥壁大滝も、と妄想していたが、行っても鑑賞に終わる可能性が100だろう。なんとなくアンニュイな気分を抱えながら下山した。寄大橋の近くの遊歩道脇には桜がきれいに咲いていた。周囲はお花見や散策もでき、人けのあまりない寄沢は静かでよいところだ。この季節、お山といえば残雪のお山を楽しむ人が多いなか、山枯れした里山を花粉でぐずぐずしながら、偉大な先人の足跡を彷徨うのも、まぁよかったかな。