道の駅の道路向かいの駐車場に停め出発し、明澄橋という橋から田代川に入渓した。
田代川は見所はごくごくわずかで、ほとんどが薄く土砂が堆積しているゴーロ歩きに終始する。長い距離を歩くために来ているので気にすることはない。回廊のような沢床の突き当りが小さな堰堤。房総らしい高い側壁から、門のような小滝を越えると沢は細った。「おーぁ」という、なんかオバサンっぽい声が聞こえ、ギョッとしたら、やたらでかいキジだった。稜線沿いの登山道が近くなるポイントで脱渓した。
山頂のテーブルでは若者のパーティが楽しそうに炊事していた。写真1枚撮って3秒で後にした。
本坪井沢への下降はC306mの尾根を末端まで辿ってから。尾根は出だしで林道で分断されていたので迂回してから乗った。
これがC306m小ピーク。三角点などなし。
本坪井沢も田代川と同じ感じ。ただ何故か動物がすごく多くて、房総の沢で初めて猿を見た。それにイノシシ、鹿、トンビ・・。特に鹿が多くて、なんどもピーと言われて白い尻をフリフリしながら急斜面を駆け上る姿を見た。下流はえんえんゴーロで、さすがに飽き切った。
本坪井沢(左)・小坪井沢(右)二俣。
小坪井沢は他よりも地盤が露出していてナメ歩きが楽しめる・・というほどでもないか。短い沢ですぐ埋まってしまったので、予定どおりC274mへの枝尾根を拾って脱渓した。ちなみに小坪井沢-本坪井沢はかつての森林軌道のトンネルでつながっているそうだが、特に気にしておらず、気がついたら素通りしていた。
なんと赤テープがえらく頻発する。予定と異なるが、赤テープを拾ってみることに。
これがC274m小ピーク。
赤テープは枝尾根末端の断崖を下りていき、突然終わった。登り返すのもダルイので無理やりクライムダウンし、行き詰まったところから3mほど計画的に滑落した。真ん中が滑落跡。こんなアホな赤テープは無視して、予定どおり地形だけ見て進むべき道を選ぶべきだった。
帰りの道すがら、荒涼とした笹川湖のレンタルボート。
駐車場(8:30)~田代川入渓(8:45)~元清澄山(11:55)~C306m(12:40)~本坪井沢・小坪井沢二俣(14:15)~C274m(15:20)~駐車場(16:30)
ルート☟
●本坪井沢を歩き下っていたときのちょっとした出来事
下流のほうから風が吹いてくる、というか沢の空気が流れてくる。それが急に特徴的な腐臭を運んできた。あの生々しい違和感が鼻から顔を撫でてくる感じ。あー、まもなく動物の死骸と出会うんだろうなー、と心の準備をした。いきなり食い散らかされた死骸が出てくると驚いて絶叫してしまうからな。やだなー。
門のように両岸が狭まった小滝に大量の流木が詰まっていて、隙間のトンネルをよいしょとくぐって顔を上げると、トンビがピョーーーロロロとけたたましい鳴き声とともに飛び去った。そこにあるんだろ? ちらっと見たら、胴体が丸くて、手足が短く、首がない。皮を剥がれて白くなった腐りはじめらしいそれから距離を取って、通り過ぎた。あたりは房総らしい高い泥壁に囲まれているので、転落したの、かな。
歩いていると、向こうに若干二本足で手をつきながら歩いている小さな動物がいる。あれ猿じゃないか? 房総の沢ではじめて見る猿だ。猿もこっちに気がついたらしい。一瞬目があった。一触即発になったらやだなー、と思ったが、猿はよろよろと沢床近くから生えているでかい木の根っこに隠れた。あれ、かなりの急斜面とはいえ猿には登れないはずはない程度だが・・逃げないのか? そこに隠れても、いまからその脇を通るんだけど?
あまり視線を向けないようにすれ違ったが・・、ちらっと見ると、猿はえらく神妙な様子でこちらを見ないようにしていた。弱ってるのかな・・、あれじゃ文字通り頭隠して尻隠さずだよ・・。成熟したオスは群れから離れて一匹になる、とか一般的な猿の習性は忘れ去って、孤独な猿の行く末を案じた。なんだかその姿は死を待つ老人を連想させたのだ。動物を勝手に擬人化して妄想をたくましくするのは人間の悪いクセだ。
ピーーーー!と警戒音を鳴らして鹿が逃げ去った。大きなつがいで、白い尻をフリフリしていた。うるせえ鹿だなと悪態をついた。せっかく猿を想って妄想してたのに、興ざめだよ。
あ!タヌキ!と声を上げてしまった。タヌキくらいの丸々とした四つ足の動物が沢床の端っこをゆっくり歩いていたのだ。でもタヌキといえば丸っこくて大きな尻尾だが、あの子には尻尾がほとんどない。さっきの猿のように歩みを止めて小さくなり、人間を見ないようにしている。突然のことにびびってるんだろうな。ゆっくりとすれちがいざまに顔を見ると、全然タヌキじゃない。顔の先っぽが細長くて・・、あれは子供のイノシシだ。
親イノシシがいたら危ない!と思って身構えた・・、が、力なくうずくまっている子イノシシをもう一度見たら、全て分かった気になった。さっき見た丸っこい死骸は親イノシシだったのだろう。親子で転落したのか、あるいはその辺をうろついている時に何かあって親だけ死んだのか。どちらにしても、急に親がいなくなり、生きる手立てを失った子が、高い泥壁に囲まれた沢を当て所なく彷徨い、やがて死ぬのか。あるいはそれも人間の勝手な妄想か。
これら一部始終、あのトンビが空から観察していて、虎視眈々と狙ってるんだろう。また向こうでピーーーー!と鹿が叫んで白い尻を振りながら逃げていった。ふん、うるせえ鹿だな。
おわり