隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

奥美濃・揖斐川 西谷本流~金ヶ丸谷

 

  • 11/4(土)

夜叉ヶ池登山口(7:00)~椀戸谷C496地点(7:50)~門入(12:50)~堰堤上から西谷入渓(13:20)~金ヶ丸谷・根洞谷二俣(16:20)

  • 11/5(日)

BP(7:10)~C1250m付近稜線(14:00)~C1252m小ピーク(14:10)~夜叉ヶ池(14:55)~起点戻り(16:05)

  • ルート☟

 

 

序:アプローチ

金ヶ丸谷は「西谷で最も魅力のある谷で、長大な原始境」という(大系)。晩秋の原始境を妄想して一人でうっとりしちゃうんだけど、地形図をみれば金ヶ丸谷だけでは短い。もっと長大にして歩き倒したいなー。そういうわけで、下流の西谷本流から歩くことにした。その場合、必然性があるスタート地点は門入の堰堤上だろ。徳山ダムに閉ざされたそこに行くには山越えになるようだ。

それで、まずはゴール地点である「夜叉ヶ池登山口」に車を停め、おもむろにキックボードに乗った。ところどころ路面が荒れる林道を8kmほど走り下り、地形図に496と書かれた神岳ダム・椀戸谷あたりから山に入った。ホハレ峠から山越えするのが一般的なようだが、駐車場から遠いし標高差も大きくなるため、このプランがまぁ無難だろ。それに地形図には廃道らしき記号が横溢している。顕著な尾根筋は確実に踏まれているだろ。

最短距離・・と思ったけれど実際はどうなのか分からない、山越えを経て、黒谷とやらに降り立つと、道がありピンクテープが貼られていてフーンと思いましたね。右岸の林道に上がる。ぐちゃぐちゃとぬかるんだ道で、いわゆるひっつき虫が大量に生えていて、まったく快適ではない。ズボンと軍手に大量にひっつかれてちょっとイラっとした。気が付けば杉植林のタイヤ跡が残る道になり、レトロな沈下橋を渡れば門入の集落に辿りついたようだ。休憩して、ひっつき虫を全部取った(お尻に残っていたが・・)。

門入とか徳山ダムとかにはここでは触れない。集落を素通りし、大堰堤を過ぎたあたりで西谷に入渓した。最初はお決まりの広河原で大ゴーロ地帯だ。出発して16kmくらい、6時間くらいかかった。ああ、なんか疲れた~~。

 

・・・

神岳ダムを右手に椀戸谷の橋までもう少しのところ。林道は狭く、朝は登ってくる車と幾度もすれ違うため、キックボードは少々危ない。

登り始め。どこでも登れるけれど、踏み跡を拾い続けることもできる。

500mほど登ると最初の廃道に合流した。昔の現役時代はどんなだったんだろ。

尾根の踏み跡を拾って北東側の廃道へ。

廃道から黒谷へと真っすぐ下りていく東尾根もしっかり踏み跡を拾える。

黒谷沿いはハイキングコースみたいだが、堰堤の巻きがちょっぴりリスキー。

大系によると黒谷は林道建設と伐採で荒れ果ててしまったという。

大堰堤から右岸の林道に上がる。

ひっつき虫がウザい林道。

人跡濃い道に変わった。

沈下橋から門入へ。

これが門入を流れる西谷本流。

集落を素通りし、

林道から大堰堤を見やる。

埋まり切った広河原へとやっと入渓した。

 

 

 

西谷本流

広河原を粛々と歩く。10分少々で右岸に茂津谷を分けた。埋まり切って平らかなゴーロを撫でるように、水は薄く広がって流れている。晩秋は渇水である。さらに30分。だんだんと渓流って感じになってくる。そしてさらに30分。黄色い紅葉を愛でながらステキな渓流歩きになった。よい気分で休憩。

左岸の上方には林道が通っているが全く気にならない。一度ハンターと思しきバイクの音が聞こえた。ここまで沢はおおむね左岸を中心に昔道があっと見られ、ところどころ途切れるがかなり拾えた。渡渉もすねから膝くらいだった。

そこから沢の真ん中を門のように遮る小さな岩場が二つ続く。一つ目のそれは左岸にオセビ谷が出合う屈曲点にあり、水流が厚くかつては難所だったようだ。いま、そして晩秋の今日はそんなことには気づかずに通過するに過ぎない。二つの岩場はどちらも左岸を簡単に登った。その後すぐに、これも短いが両岸ともに高く聳えるV字となり、膝程度の水中歩行で越えた。このへんは水量が多いと進むのに苦労するかもしれない。沢はまた穏やかになるが、時間も15時半になり、急ぎ足だ。

沢が大きく左折し、その奥が金ヶ丸谷・根洞谷二俣であろう。16:20にやっと到着した。入渓から3時間くらい。出発からだと9時間ほど歩き通しで、ああ、疲れた・・、が、休むことなく野営の準備にいそしむ。秋の日はつるべ落おとし。飯を食い、ようやく焚火をぼんやりと眺めながら、今宵は熟睡できそうだな・・と思った。

 

・・・

茂津谷を右岸に分ける。このあたりはまだゴーロ。

だんだんと渓流って感じになり、

ステキな散歩コースになった。

小さな門が二つ続く。一つ目は左岸の岩沿いを登って巻いた。

ぱっくり割れた岩。水平に鎮座してくれていたら、一度こんなところにテント張ってみたいんだけど。

二つ目の門。これも左岸から簡単に。

両岸が迫る。水位が低くて助かった。

穏やかだなぁ。

最後、大きく左へ曲がる。左岸をへつれそうだが、結構濡れそうだったので、右岸から巻いた。

金ヶ丸谷・根洞谷二俣。台地状がよいテン場だった。日没前に辿り着くことができて、ちょっとホッとした。

夜のぼんやりタイム。明日歩く金ヶ丸谷が楽しみだのぉ。

 

 

 

金ヶ丸谷

朝4時に自然と目が覚めた。ツエルトのジッパーを開放して、沢音を聞きながら夜空が少しずつ白んでいくのをぼんやり眺めた。なかなか寝付けず朝方になってやっと眠りに落ちて、そのまま寝坊する・・、のが常だったのが、今朝は嘘のようだ。

昨日は結局急ぎ足になってしまったので、今日は金ヶ丸谷をできるだけのんびりと歩きたい。そう「長大な原始境」とやらをね・・。ふふ。

最初はお散歩から小滝を一つ越え、短いゴルジュ。そしてハゲン谷出合に至る。少しお散歩して小ヤブレ谷出合。そこからまた短いゴルジュを抜けると、あぁー、と詠嘆の声が上がる。これなんだよ。こんな感じの風景に出会えることを妄想して、いつも山に入っているんだよ、という風景が目の前にあった。あぁー、とまた声を出して、下山後すぐに妻に送ろうと思って、スマホでも写真を撮った。あぁー、何度も声が出る。ここはまだ金ヶ丸谷の序盤。通り過ぎなければならない。大ヤブレ谷出合を過ぎる。あぁー。歩くスピードが遅くなる。あぁー、幽邃ってやつだぁ。

気が付けば両岸が高くゴルジュがちになっていた。左岸に残置ロープが垂れた6mくらいの小滝を登ると、ゴルジュのなかに倒木、5m滝、4m滝。どれも左岸を登ったが、巻き道もあるようだ。多分金ヶ丸谷のなかで核心になるところだろう。その後は断続的に小滝がつづく。釜には枯れ葉がゆらゆら漂っている。そして、サーっと風が吹いて、落ち葉吹雪を浴びた。

沢が北向きに折れ、なだらかな登りから傾斜強めな登りになってくる頃、晩秋の紅葉の沢から苔むしたゴルジュの沢に様相が変わった。岩肌も剥き出しで廊下と言った感じ。印象的な滝が二つ。大き目なプールをもった4m滝を左岸からへつり登り、1m・5mの細いトイ状滝は右岸から巻いた。廊下を抜けると一気に水量が減り、明るい源頭に変わった。

あとは細くなっていく水流を忠実に辿りながら、金ヶ丸谷の源流の一滴を探す。水溜まり、染み出し、若干水流・・それらと、伏流とを繰り返し、やがて小さな染み出しを最後に水がなくなった。そこから5分で激薮に突入し、さらに3分の藪漕ぎで登山道に出た。

向こうに見える三周ヶ岳には、さらに登山道を歩いてまで行く気にはならなかった。それより、すぐそこにあるC1252m峰。それを今日の区切りにしましょう。踏み跡は藪で覆われていて、乾いて鋭利になった枝で頬っぺたを切った。ふん、まぁいいでしょう。ピークから三周ヶ岳を眺めて満足した。誰もいない。最高ですね。

 

 

・・・

二俣から金ヶ丸谷を歩き出す。

最初の小滝は左から越えた。

ゴーロを挟み短い廊下を通過する。

40分も歩けば左岸にハゲン谷を分ける。

小ヤブレ谷を出合を過ぎ、小さな廊下を通過すると、

原始境。私にとってはこれこそが妄想と現実が鏡面のように接する境。「幽邃」を感じる沢旅をしたいと思っていて、このような風景に出会えることは格別の歓びなのだ。

大ヤブレ谷を分ける。

龍のような根っこ。

高ーく伸びる象のお鼻。

左岸が一か所、大木を支えきれずに崩落していた・・。

両岸が高くなる。

これがゴルジュの入り口。

最初の6m滝は左岸に残置ロープがあるが、なくても難しくはない。ロープは巻きルートへ伸びている。

6m滝上は倒木。奥に5m滝。

5m滝も左岸を登る。

少し歩いて、最後の4m滝。

4m滝は左岸のコーナールンゼを上がってから左上して抜ける。滝上は穏やかになる。

小滝がつづくゾーン。スタコラと進んでいく。

ここで落ち葉吹雪を浴びながら休憩タイム。

沢が北向きに折れ、苔むしたゴルジュに様相が変わる。

プールをもった4m滝は左岸をへつって落ち口に直登できる。

1m・5mのトイ状は濡れそうだったので右岸巻き。釜に立てかかった倒木にナラタケ(かな?)が大量に群生していた。

5mトイ状右岸巻きから沢を見やった。

ゴルジュ地帯が終わると源頭な感じに。

ひときわ大きなトチの木(トチの木だと思うんだけど?!)

のんびりと源頭を散歩。

水が減っていき・・

ほとんど流れがなくなり、

水溜まり。

最後のひと登り・・、

これが今回見た金ヶ丸谷の水が生まれるところ。

あとはごく短い詰め。

一瞬激薮を漕ぎ、

登山道。三周ヶ岳は見るだけにしておこう・・。

C1252m峰への入り口。藪をかき分け進む。

C1252峰ピーク。三周ヶ岳を見やる。これで区切りだ。

 

 

 

終:下山

あとは登山道を降りるだけだ。

稜線上はすごい濃い藪で、ここに登山道を拓くのはとても大変だったのではないだろうか。夜叉ヶ池とやらはぜひ池のほとりに立って、手を水面に浸してみたかったところだが、下山路を離れて結構歩かされるので面倒になって諦め、休憩した。また歩きながら、印象的な夜叉壁を見やり、何よりおわりに近づいていく晩秋の紅葉が夕日に輝いているの見やり、目を細めた。そう、数日後とか、1週間後とか、それくらい経てば全部きれいさっぱり落葉して、お山はいっとき日中どこもかしこも明るくなり、そして冬に閉ざされていくんだろ。閉ざされる前、ほんの2週間かそこら、こういった標高1,000m前後の山岳環境は実に過ごしやすくなり、さらに美しく幽邃な風景を見せてくれることを知っている。初めて訪れた揖斐川源流のここでもそれは同じだった。

などと晩秋の味わい深い登山を振り返りながら、愛車までの道のりを急いだ。

 

 

・・・

稜線上の濃い藪のなかに拓かれた登山道。

夜叉ヶ池。池まで行くのは諦めて、池を眺めながら休憩。

夜叉壁、幽玄の滝、昇龍の滝といった岩の風景、そして何より紅葉のおわりの輝きを見やりながらの下山。

登山道は沢沿いのトラバース道に変わり、

あー、おわりだ。駐車場だ。

夕暮れとなりガランとした駐車場の看板。帰ろう。

 

 

おまけ

・落ち葉吹雪を浴びた・・

・かわいそうなイワナちゃんをちょっとだけ弄んでしまった・・

 

おわり

 

参考

「日本登山大系10[普及版]」白水社、2015

森本次男「樹林の山旅」サンブライト出版、1978