隠レ蓑

お山の記録と、日々の懊悩

吾妻連峰・中津川本流

7/8~10 吾妻連峰・中津川本流 の思い出

with Junさん

 

  

<中津川遡行前夜>

もともと7/7~10の4日間で白神山地の予定を立てていたが、雨で残念ながら中止にした。7/8~10の3日間に短縮し、代替案として南ア南部・聖沢本流を予定したが、それも雨で中止にし、さらに代替案の上信越国境・魚野川本流に行くことにした。・・のだが、車を停めた発哺温泉からタクシーで切明温泉に行き、入渓するつもりだったが、林道が降雨対策とみられ閉鎖されており、発哺温泉に戻るはめになってしまった。林道を迂回して切明温泉に自走で行くにしても、野反湖にスタート地点を変えて登山道を使うにしても、入渓まで6時間以上、とにかく時間がかかりすぎる・・・。それなら、と、これまた代替案で候補に挙げていた吾妻連峰・中津川本流に行くことにした。中津川までは車で4時間もかかるが、入渓は5分だ。

7日の深夜に川崎を出て、発哺温泉に到着し、車中泊。それから残念な時間をすごし、日本海を見ながら福島までドライブ。ドタバタの600㎞をへて、中津川渓谷レストハウスに着いたのは、8日の13時半ごろであった。レストハウスでお昼を食べ、支度をして、ようやく出発となった。

 

<遡行のまえに>

さて、ここで私の個人的な思い出を話さなければならない。私は4年ほど前に、一人でこの中津川に来たことがあった。その時は、前夜をこの中津川渓谷レストハウス車中泊したのだが、だだっぴろい真っ暗な駐車場に車は私の1台だけで、なぜだか急に暗闇と孤独が怖くなってしまったのだった。子供のように一人でトイレに行けないような、青臭い本能的な恐怖であった。それでもとにかく寝て、起きて、支度をして入渓したが、「今晩、真っ暗な夜の沢を一人で過ごすなんて無理だー」となってしまっていた。美しいはずの白滑八丁のU字にもびびりまくり、魚止滝を越え、取水口に着いたとき「もはやこれまで」とエスケープを決めた。エスケープを決めたときは、本当にホッとしたものだ。そこでプチ焚火をして、作業道を拾って下山したのだった。

したがって、いろいろあって代替案に次ぐ代替案で来たわけではあるが、自分にとって今回の中津川は、前回の失敗を挽回する沢旅でもあったのだ。今回はパートナーのJunさんもいるし、遡行には何の問題もないだろう。入渓前はそのように軽く考えていたが、遡行ではまたもや本当にダメな失敗をしてしまった。正直記録として残すのも恥ずかしいばかりではあるが、ネットで検索すると吾妻連峰・中津川本流の記録は無数に出てくるので、そのなかで一つくらい、私のこの記録のような失敗談があっても、まぁよいだろう。ぐだぐだな沢旅の思い出である。

 

<入渓から軽率な失敗まで>

初日の入渓は15時と遅かったが、取水口までは行ったことがあったので、3時間もあれば着くだろうと考えていた。しかし、午前中にまとまった降雨があったらしく、まあまあ増水している。また、Junさんの足周りはなんとボロボロのフェルト靴で、白滑八丁のスメアリングを利かせたトラバースには時間がかかった。それでもロープを数回出したりしながら、急ぎ足で歩を進め、増水してちょっと怖いくらい大量の白濁した水を落としている魚止滝を越えて、取水口に18時半前に着いた。その日はそこでタープを広げて寝た。

そして2日目である。いつもなら決してしない失敗を、二つもしてしまった。それ以前にも、朝適当に寝まくって、出発はまさかの9時20分。ちょうど私が風邪を引いていてゲホゲホやっており、調子が悪かったとはいえ、今日どこまで進むか、明日どう下山するか、基本的な今後の予定もあまり考えずに、「今日は晴れた」などと目先のことしか考えてなかった。出発し、広い釜に美しく朝日が差している銚子口を越え、中流部のハイライトともいうべき美しい区間に入り、途中の観音滝を左岸から簡単に巻いて、さらに写真を撮りながら進んでいった。

一つ目の失敗は、神楽滝の手前にあった、大きな釜をもった小滝で起こした。左から簡単に巻けるところだったが、流れもそれほど強くなく、ダメなら途中から巻けばよい、と考えて、ノーロープで、釜をヤツメでおっかなびっくり泳ぎ出した。が、泳ぎがショボい自分では、案の定水線を越えることは出来ず、戻ろうとした。ところが急に足が動かなくなってしまった。どうやら両足とも吊ってしまったらしい。ザックが上流側にあり、水流でザックの雨蓋が押されてヘルメットがずり下がり前が見えず、さらにカメラバッグをザックを背負った上から、きつめにたすき掛けしていたので、邪魔でヘルメットが取れない。ギョッとして、一瞬どうしたらよいか分からなくなってしまった。頑張ってバランスを取っていないと顔が水に沈みそうである。アップアップしながら、釜の水流が集束するところを見つけ、その流れになんとか乗った。足がつく安全地帯まで流されたのと、Junさんからのお助け長スリングを掴んだのと、同じタイミングであった。

二つ目の失敗は、神楽滝の巻きであった。本当はこれではないと薄々分かっていながら、かなり急な細い泥ルンゼをJunさんが登り出した。20mくらい登ったところで、Junさんが行き詰まっており、ガンガン落石しながら悪そうに一歩一歩上がっている。「ちょっと待って」と急いで登って合流したが、それはクライムダウンできないくらいボロボロでドロドロだった。さっきの釜で両足吊り、足が鉛のように重かったが、それも忘れるくらい危険を感じた。いつ足元が崩れるか分からない。クライムダウンは厳しいが、このまま細いルンゼを登り続けるのもあり得ないので、右側にちらほら生えていた細いブッシュのほうへ渋く移動し、そこからブッシュをつないで腕力で15mほど登って、やっとあった太い木でセルフを取った。そこからJunさんにリードしてもらい、ロープを出してさらに垂直木登り30m。そこで崖になって行き詰まり、右側のザレルンゼを振子懸垂で渡ると、小尾根に乗った。小尾根は安定していて問題なさそうに思えたが、念のためコンテにして数m登ると、ふいに明瞭な踏み跡に出た。ようやく正しい巻きルートに出たようであった。

 

<振り返り>

2時間以上かけてようやく神楽滝を巻き下り、16時半前に夫婦滝に着いた途端、土砂降りになった。急いでタープを立て暖をとったが、どんどん増水し濁流に。しかし雨は夕立で2時間ほどで止み、焚火もすぐに起こすことができた。びしょびしょだったので乾かし大会をしながら、本日の失敗を振り返った。

今回急きょ中津川に来たことから、ルート情報などの調べが足りず、また行動計画も「3日間」あるから大丈夫だろと、きちんと検討していなかった。そして、数年前に中津川を中退した私の記憶はかなりあいまいなものに過ぎなかった。このような事前準備の不足は、失敗をまねく要因の一般例としてよく挙げられるだろう。

しかし、それよりもずっと大きな要因があることを、今回のJunさんとの山行で痛感した。それは、簡単に言えばパートナーに対して無意識にもっている依存である。Junさんとは、ほんの初心者だった10年くらい前から一緒に登っているので、お互いに分かりあって山行することができる。しかしその反面、「何をやってもパートナーがいれば多分大丈夫だろ」といった、無意識に互いに依存し緊張感が欠けている状態になりがちだったのだと思う。その結果として、ノーロープでショボい泳ぎをして案の定失敗したり、激悪の泥ルンゼを適当に登り出してしまったり、といった、ともすれば致命的な状況を招きかねない行動を、深く考えることなく起こしてしまった。これら、その後の見通しを立てずに行動に移すことは、普段単独で山に入っているときには、決してしないことである。また、Junさんと山に入るとき、要所でロープを出すか出さないかは、基本的に私が先行して判断することが多いので、その意味でも、まずは私がしっかりしていなければならなかった。一応、計画書上では私がリーダーだし。年上はJunさんだけど。

焚火をごうごう燃やしながら、心は悔恨の念でいっぱいであった。Junさんにも申し訳なく思った。本日のダメな行程で、明日最終日の行程が長くなってしまったが、明日は早起きして、ちゃんと歩こう、と悔い改めた。

 

<最終日>

早起き、といっても普通に7時に出発し、すぐ熊落滝についた。入念に巻きルートを探り、途中で鎖も出てくる踏み跡をたどってトラバース道に出た。そこからは踏み跡は不明瞭になり、途中で下降する踏み跡もみられたが、安全を見てかなり巻き進んでから、懸垂なしで沢に戻った。熊落滝の奥の不忘滝を見に行きたかったが、時間優先でスルーしたのは本当に残念だった。増水気味で圧感の朱滝も、慎重に巻いて落ち口付近で沢に戻り、休憩。そこからは長い詰めを歩き、ヤケノママ、2俣、水がどんどん少なくなり、空が広くなって、終わりが近いと感じ始めてからが、また長かった。

最後の最後にまた無駄にヤブに突撃して少し時間をロスしたが、気持ちのよい湿原から登山道に出て終わりを迎えた。15:30である。デコ平のゴンドラ最終の時間も調べていなかったので、とにかくすぐ下山を開始したが、電波の通じた西大巓で予想通りゴンドラはもう終わっていることを確認し、代わりにタクシーを19:30で予約できた。西台巓から900mほどをどんどん下り、日が暮れるとともに雨が降ってきて、暗くなったグランデコに19:20に着くと、タクシーがすでに待っていてくれた。

 

<おわりに>

数年前、中津川を中退したときは、この美しい渓谷にまた来なきゃいかん、と固く誓ったものだった。今回長年の仲間であるJunさんと一緒に来れたことは、うれしいことであった。一方、前述したような失敗があり、山行としては低いクオリティのものになってしまったと思う。しかしながら、ポジティブに捉えれば、問題点をはっきりと思い知らされたし、今一度初心に返って安全で楽しいお山をやっていく契機を得ることができた、とも言える。ここはポジティブに捉え、今後もJunさんと楽しくご一緒できればよいと思っている。お山はそこそこ登れるようになったなぁ、と思う頃が危険な頃である。私などはまだまだではあるが、今後も気を引き締めてお山に向かいたい。

2回の吾妻連峰・中津川の遡行は、2回とも失敗ばかりになり、思い描いていた幽邃の沢旅とはならなかったが、やっぱり行けてよかった。とても美しい渓谷で、詰めが湿原というのは本当に気持ちのよいものであった。思い出に残る沢旅になった。最後に、この記録を読んでくださった方のお山の一助になれば、幸いである。

 

<行程> 

7/8:中津川渓谷レストハウス(14:45)~白滑八丁(15:20)~魚止滝(17:20)~取水口(18:20)

7/9:BP(9:20)~銚子口(9:40)~観音滝(10:35)~神楽滝(13:50)~夫婦滝(16:20)

7/10:BP(7:05)~熊落滝(7:40)~筋滝(9:55)~朱滝(10:50)~ヤケノママ(13:00)~登山道(15:30)~西大巓(17:20)~グランデコ(19:20)

 

 

 

 

白滑八丁 と 核心(?)のややヌメのトラバース

 

 

魚止滝 と 取水口の幕営

 

 

銚子口 と 美しい中流部の様子

 

 

 

観音滝 と その上部

 

 

失敗した釜 と ぐったり休憩

 

 

神楽滝 と 失敗したルンゼ

 

 

夫婦滝手前の幕営地で夕立 と あっという間の増水

 

 

夫婦滝の増水前 と 増水後

 

  

熊落滝 と その巻き

  

 

筋滝の登攀 と 朱滝

 

 

ヤケノママ と 源流

 

 

源流 と 湿原