隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

今早出沢・ガンガラシバナ

8月5日~7日

今早出沢・ガンガラシバナ

with Oさん

 

 

2泊で谷川の予定だったが天候が悪く転戦で来た。代替案でいくつか候補があったなか、ガンガラシバナを選んだ。この時期にこの山域は条件が悪いのだが、その分ありのままの自然が楽しめるだろうと、ポジティブに考えてみたのだった。楽しむどころではない、自然の手厳しい洗礼をしっかり受けたりもしたが、下山すればよい思い出。山のいろいろな側面に触れられて、それはそれで満足だ。

 

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前夜発がかなり遅めだったので、初日はゆっくりめで9時ごろ入渓。一ノ俣沢橋は、地形図と漢字が違って、一の又沢となっていた。

 

要所に赤テープがあるが少々わかりにくい。途中、20m?ほどの滝があり、手前の枝沢に赤テープがあったので、それを詰めていってしまったが、実際は滝を巻くための枝沢だったらしい。ルートをそれてしまい、僕の読図もうまくなく、稜線直下では猛烈な藪漕ぎとなった。急きょ転戦してきたので調べが足りなかったが、赤テープも張り位置がわかりにくいと思う。

 

この奥の滝の手前の枝沢を詰めていってしまった。実際には枝沢から戻り、さらに2か所赤テープがあったようだ。

 

6時間以上かかり、やっと今早出沢についた。割と疲労困憊で、適地があればすぐ幕営することに。入渓してからすぐ、大量のアブにたかられ閉口した。20~30分ほど歩いたところで広い河原があり、そこで幕営した。

 

沢はとてもキレイだが、アブ柱が立ち、居心地が最悪であった。早々に焚き火をはじめて、落ち着いたものの、日が暮れるとともに今度は蚊がすごいことになった。タープは完全失敗。予想外に下流域での幕営となったため、蚊除けを万全にしようとすると暑くてまったく寝られないし、寝返りをうったり、もじもじしているうちに、シュラフに蚊が入ってしまったらしい。また軍手は蚊除けにならず。なんと全部で200か所以上刺されてしまった。アナフィラキシーを起こしてショック死するんじゃないかと、とてつもなく不安になった。

さらに、日中おそらくチャドクガか何かの毛虫にもやられていたらしい。翌朝起きると、蚊に刺されまくって顔も体もパンパンで右目が開かないのうえ、左手が真っ赤な水ぶくれだらけになっていて、衝撃を受けた。その写真はとても見せられないが、何かの伝染病かと思うくらいのひどい状態。最低限の処置はすぐしたが、精神的に相当落ち込んだ。(僕は虫に本当に弱い。)

本来はガンガラシバナを抜け、ジッピから今出を経由する周回ルートをとる予定であった。しかし、初日にあまり進めず、自分もこんな有り様。Oさんは蚊の被害はなかったようで、それがせめてもの救いだった。Oさんと話して、ガンガラの登攀次第で、周回ルートをとるか、同ルート下降として戻るか、決めましょうとなった。はっきり言って、虫にやられると僕は心がポッキリ折れてしまうので、Oさんがいなくて一人だったら即撤退だった。気は進まなかったが、なかなかご一緒できないOさんとせっかく一緒に沢に入れたし、なんとか頑張ろうと思った。

 

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2日目は早めの6時ごろ出発した。すぐにアブ柱になる。Oさんはヘルメットの上から防虫ネット、僕はサーフ用のネックゲイターで鼻の上まで覆ってヤッケの帽子も被った。Oさんは、防虫ネットが肌に張り付いた部分から刺されてしまい、指切りグローブも結構刺されてしまったらしい。僕は軍手だったが、アブは全然大丈夫だった。

さて、ガンガラまでの行程では困難な個所は特になかった。この日はすこし渇水気味だったのではないかと思うが、1か所、ギリギリ足が立たないくらいの淵があったが、流れもなく適当に水流をへつれた。

 

滝らしい滝はこの2段のみ。登攀中は動きが遅くなるため、アブが顔に張り付いたりしてかなり不快な登攀になる。

 

 

 

見えてきた。意外に近い。上流に行くにつれ、アブも減った。雪渓の存在がありがたい。

 

8時ごろ2俣についた。時間的にはジッピのほうに降りてもよいようにも思われたが、僕の調子がいろいろと良くなく、残念ながらモチベーションもあまり上がらない。申し訳なかったが、ガンガラを登って下降するプランに変更した。そうなると心に余裕もでき、憧れの奥壁に対するワクワクも戻ってくる。さぁ、登ろう。

 

雪渓を巻いて登攀を開始した。水流の角度が変わる最下段の落ち口までは、左壁を適当に登った。

 

それ以降は水流のすぐ右側をえんえんとフリーで登った。悪くなって来たらロープを出しましょうと、50mダブルは背負っていたが、結局使わなかった。岩はフリクション抜群でスメアでどこでも立てる。ガンガラとしての最上段あたりでトイ状となり、そのへんが核心だと思われたが、手も足も豊富。とはいっても、せっかくロープも持ってきたし、最後くらい出しましょうか、とOさんに声をかける間もなく、Oさんはどんどん行ってしまった。楽しく登っていたら、あっという間に終わってしまった。

 

 

眺望抜群のテラスで大休止。豪雪地帯のスラブに囲まれて、いい気分。

 

下降は右岸のブッシュをつないで可能な限りクライムダウンした。下部は傾斜が立っているので、右の印象的なハングしたカンテの基部までブッシュをトラバースして、2俣に伸びる小尾根を下降し、ピンポイントで2俣に至った。

 

下降完了した時間は11時50分。結果的に全然周回ルートでも問題なかったが、仕方ない。2俣にタープを張り、Oさんは釣りに出かけ、僕はそこら中から木を集めた。遅ればせながら、初めてイワナを食べさせてもらった。日中はアブがちらほらタープについていたが、陽が落ちるとともに上流の雪渓から冷気が滾々と流れてきて、虫は皆無。相変わらず左手はひどいことになっていたが、蚊に刺された腫れは多少引いてきて、快適な夜を過ごせた。昨晩はほぼ一睡もできなかったが、ようやく寝れた。夜寒くて2~3度起きて、その都度焚き木を足していたが、闇の向こうに浮かび上がるガンガラシバナのスカイラインが印象的だった。

 

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3日目は下山だけ。上流からの冷気がガスとなって辺りを包んでいるなか、歩き出し。すぐに朝日に温められてガスは消え、かわりにアブがやってくる。渓相を楽しむ雰囲気にならず、アブ柱を引き連れ黙々と歩き、赤ッパ沢の本来の踏み跡を今度は拾った。なるほど、これを拾えばあっという間に移動できる。ささっと下山した。

 

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これほど蚊にやられたのは、以前台高の東ノ川に行ったとき以来だった。その時もタープで大失敗だったが、一人だったので即エスケープして下山だった。それを教訓にいろいろ対策をしていたものの、結局同じ失敗を繰り返してしまった。Oさんにも申し訳なく思う。一方で、アブについては行動中ずっと柱になっていて不快ではあったが、被害はなく対策が功を奏した。

全体に、山行中は虫に対する意識がかなりの部分を占めていて、渓相を楽しむような余裕があまり持てなかった。やはり時期がよくないことを痛感したが、しかしこれも山のもつ一側面。快適な山行だけがいいわけじゃない。さまざまな山の側面を受け入れることが重要だ。そんなのも夏の晴れた状況だから言えるのかもしれないが、山との向き合い方について、あらためて認識が改まる気がしないでもない。

ガンガラはよかった。ここにこれてよかったなー。でも次くることがもしあったら、やっぱこの時期は避けよう笑。蚊に刺される人・刺されない人、蚊に刺されても大丈夫な人・刺されるとひどくなる人、これが確実に分かれる。弱い人は相当な対策を忘れてはいけない。自戒。

 

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8/5 一ノ俣沢橋(9:00)~今早出沢出合い(15:30)~幕営(16:30)
8/6 BP(6:00)~2俣(8:00)~ガンガラ登攀(8:50~9:40)~下降完了(11:50)~2俣で幕営
8/7 BP(6:20)~赤ッパ沢(9:20)~一ノ俣沢橋(12:30)