8/10~12 宝剣から伊奈川本谷を下降 with SKさん
計画では中御所谷から宝剣岳中央稜を登り、伊奈川本谷を下降する予定であった。車2台で、1台を倉本林道の登山口にデポして、伊那から木曽へ、なんていうちょっとした沢旅がしたかったんだ。
メインははっきり言って長い伊奈川を悠然と歩くことで、遡行でも下降でもどちらでもよかったのだが、伊奈川だけではどうにも物足りなく感じていて、それでこんな計画になったのだった。数年前に大きな怪我をしてしまい、沢登りリハビリ始めのSKさんには適したルートかと思っていたが・・。
結果としては、登攀的な中御所谷はSKさんにはまだまだ難しかったようだ。日暮の滝からCS滝を巻き沢に戻るまでで3時間。時間がかかりすぎることと、登攀に相当の不安を感じたことから下降することにした。SKさんの現状など僕の見極めが甘くて申し訳なかった。それでお気楽にロープウェイで千畳敷へ。この時期、植生保護のため下からのアプローチはできないので、とりあえず登山道で宝剣山頂に向かった。
が、山頂も立ち入り禁止ロープが張られ、これみよがし?にバツ印も。周りはハイカーの群れだ。こんな大注目?のなかロープを出して懸垂下降して・・なんてできるかね。お山は背徳的な楽しみが占める割合が多いほうだけど、それは隠微にやりたいもので、こんなに開けっぴろげじゃあな。楽しくない。やめましょう。
それでとりあえず頂上小屋でテン泊した。中御所谷で見た限り、SKさんは怪我の影響もあって、沢や岩のような不整路の歩行や登攀を3日間フルでこなすのは大変そうに見えたので、結果的にはよかった気がする。時間に大きな余裕ができたので、またビール飲みながらアマゾンプライムでトム・クルーズだよ。
翌日、晴れのなか撤収して宝剣へ向け登山道を歩き出した。中岳の巻き道はここらへん一帯で一番好きなところで、その理由は勿論ここだけ急に人が減るから。いろいろと周囲を眺めながらぼんやり歩いた。
伊奈川への下降は三沢岳分岐から見て決めることにしていた。空木方面はどこまでも植生保護の立ち入り禁止ロープが張られている感じなので、三沢岳への登山道から下降することにした。
草付きのなかに微妙につながる流水溝を拾って源頭に下りた。結構高いところから水が出ており、湧水豊かである。
それからは分かり切ったことではあるが、特出すべきイベントもなく、ゴーロ帯を歩き下るのみである。念のため滑りそうなところで、2回ロープを出した。概ね1時間ごとにSKさんの歩行距離と歩行の状態を確認して、3~4回目、つまり3~4時間くらいで、ホントに伊奈川を下るか、やっぱ戻るか、自分のなかで決めてSKさんに話すことにした。山奥なのでやはり心配だった。伊奈川下降は長いし、無理はしてほしくないからな。
しかしSKさんも元々かなり激しく登ってきている人だし、最近はトレランで体力的には充実しているので、少しずつ慣れてきている。それに中御所谷も中央稜もやめたので、メインの伊奈川の下降もやめたら喪失感でいっぱいになってしまうだろ。やっぱ引き返しましょう、とはもう言えないなぁと思った。とことん行きましょう。僕はそんなタイプじゃないけど、ここは心を鬼にして頑張って歩いてもらうしかない。頑張りましょう。
それで黙々と歩いた・・。
SKさんには激しめのリハビリになってしまったが、僕としてはこの牧歌的な美しい原生林の沢を、ホントに久しぶりに心から楽しく歩いた。幸せな気分ででかい石に座って空を見たりした。どの支流がどれで・・といった読図的なこともまったくせずに、ほとんど何も考えずに歩いた。2俣とかがあってもどこ?って感じ。GPS任せである。持ってくるだけ無駄だった2本の50mロープも重さを感じないね。
さきほどから空はもうすぐ降りそうな雲の具合。昼過ぎに案の定雨が降り始め、すぐ土砂降りになった。一時的な降雨であろうから雨宿りしてもよかったが、少しでも距離を稼ぎたかったため、引き続き歩いた。ザックをできれば濡らしたくなかったので、雨具のフードを被って、胴体部分はザックを覆うようにひっかけてみた。
16時まで歩いて、以降はテン場を物色しながら、と話していた。幸運にもすぐになかなかよい適地を見つけ幕にした。SKさん、十分距離を稼げたので、明日はもう大丈夫でしょう。雨で濡れた木だがすぐに火が起きて盛大に焚火。SKさんはツエルトで寝て、僕はひさしぶりに焚火のわきに適当にごろ寝。虫に弱いので念のためモスキートネットは被った。翌朝。えらく寒くて震えたが、日が昇れば問題ないだろ。いつものとおり痕跡を消して出発した。
伊奈川は思ったより水量が少なかったが、下流に差し掛かると場所を選んで徒渉する感じになってきた。SKさんを助けるため徒渉はだいたいスクラムを組んだ。スクラム徒渉なんて久しぶりだなぁ。
そういや道中、2組、沢登りっていうより普通の登山って感じの人たちとすれ違ったな。往時の沢沿いの登山道をうまく拾って登っているのだろう。たしかに時折赤布がみられ、ちょっと拾ってみると原生林のなかの踏み跡になっていた。
1500mの屈曲点は右岸のしっかりした踏み跡から巻いた。微妙なへつりで行けそうな雰囲気もあったが、まあいいでしょう。ここは流れが集束されていて、急流って感じで楽しい。
そのあとはもう終わりの様相である。あら堰堤が、と思ったら、すぐに左岸に踏み跡が現れ、拾ってみると林道まで一直線であった。なんだかあっけない幕切れだったなぁ。でもまあいいでしょう。沢歩きから山歩きにお着換えして、また歩き出した。
最後に伊奈川の渡渉点で、顔を洗って水を汲んでバイバイした。いつか機会があったらと思っていた伊奈川本谷。来れてよかったなぁ、とぼんやり思った。こんな機会だったからSKさんと来れてよかった。
沢から離れると暑い。しかも中八丁峠まではえらい急登で心が折れそうになってしまった。が、下りはめちゃくちゃ感じのよい登山道で最高。二人してトレランな感じで、満ち足りた気分で登山口に下りたが、そこはもはややってられない暑さでゆでだこになりそうだった。
伊奈川本谷・・・、内容的には特に大きな変化や見所があるわけではないが、カールの源流から落ち着いた原生林の流れを長く歩けて楽しかったなぁ。僕たちは11時間ほどかけて源頭から下流の堰堤まで歩いたが、走るように急げば4~5時間で下れるだろう。ゆっくり歩いても、急ぎ足で駆け抜けても、楽しい沢歩きになったと思う。まあどっちでもいいんだ。
なんだか最近はお山に入れただけでもう満足である。