隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

御神楽沢奥壁・本谷ルンゼ

9/23 会越 広谷川 御神楽沢奥壁・本谷ルンゼ

with Wさん

 

三連休で当初1泊2日で計画したが、晴れが連休中日の1日だけで前後は雨の予報であったため、幕営装備を省いて軽量化し、日帰りで行った。奥壁基部で夜を明かし朝日を仰いで奥壁を登る、というドラマチックなひと時を過ごせないのは残念ではあるが、雨に濡れたスラブを登らないといけないよりはマシである。現場は標高も低く、当日は気温も高いと思われたので、時間的に日帰りが厳しければ、そのへんで適当にビバークして進退を決めればよい、と考えた。結果として天気は良化し、普通に1泊でも大丈夫だったようなのだが・・。

 

長い行動時間になるため、湯沢出合からの入渓時に明るくなり始めるタイミングを狙って、4時に蝉ヶ平を出発した。湯沢出合ですこし日の出待ちした。沢のずっと向こうにうっすらと浮かぶ湯沢奥壁が印象的だった。 

 

入渓してから御神楽沢までの本流では、特に難しい箇所もなく、なるべくスピーディに遡行した。本流のゴルジュでは一か所深くてへつれなさそうな小滝があり、ギリギリ足がつきそうなところにおっかなびっくり飛び込んで、胸まで浸かって着地してクリアした。いくつかの支流が圧感のルンゼで出合っていた。

 

左俣のム沢の大滝が遠望でき、遡行開始から1時間ほどで2俣につき、少し休憩した。2枚目の写真が御神楽沢出合。

 

 

御神楽沢に入ってすぐに深そうな淵が出てきたが、右岸をへつって抜けることができた。

 

淵の後すぐに30mの御神楽滝。定石どおりドロドロの左岸を、ロープを出して2pで巻いた。ある程度上がってから落ち口に向けてトラバースするが、トラバースでは草付きのスタンスが泥でシビアな箇所が数歩あり、細い木の根っこを掴んで進んだ。木の根っこは心もとないが、キレイに掘り起こされているので、みんなこれを使っているのであろう。踏み跡をたどって藪をこぐと残置スリングの懸垂支点があった。

 

その後もゴルジュとなり、連続する小滝を進んでいった。小滝はだいたい困難なく登ったが、ひとつ、落ち口がU字状にえぐれている2mほどの小滝は一見とても登れそうには見えず、なんとか巻こうかと思ったが、右岸にホールドがつながっていて普通に登れた。快適に、というわけでもなく、しっかりとオブザベーションして登る必要があった。

 

ゴルジュを抜けると雪渓の残骸が谷を埋めていた。ここでこれだけあるということは、奥壁基部にもばっちり残っているということだろう。左岸を渋く巻いて、雪渓と側壁の切れ目を5mほどなんとかクライムダウンして、沢に復帰した。

 

さらに左岸に残った大ハング壁みたいな雪渓を越えると、落差30mの中ノ大滝。水流左が凹角状になっていて、容易にフリーで登った。時間があれば右壁のキレイそうなクラックを登ってもよいかもしれない。

 

中ノ大滝を過ぎると、核心と言われる上部ゴルジュの始まりである。深い釜をもつ6mくらいのこの滝は、参考に拝見した記録では登っているものもみられたので、ロープを出して直登を試みた。左壁をギリまでへつってから飛び込み、あとは水流左を登って落ち口へ。その上の4mくらいの小滝のほうが渋い。巻いていないので実際は分からないが、見る限り、巻きは実に悪そうなので、直登できてよかった。

 

10mほどのこの滝は、水流左の藪沿いに一段上がってから水際を登った。滑っていて慎重になるが、プロテクションはそれほど悪くない。滝登りとしてはこれが一番難しかったように思う。

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上の写真の10m滝で一瞬空が開けたが、すぐにまた側壁が高くなる。

 

トロからの3mほどの小滝は、左壁をへつってクリアした。落ちてもドボンするだけではあるが、へつりとしては非常に悪くて、完全に全力のクライミングであった。

 

10mほどのこの滝は一見簡単そうだが、左壁を登って水流に出るところが滑っており、念のためにロープを出しておいてよかった。 

 

最後となる10mほどのこの滝は水流をくぐって大岩の右に抜けた。

 

するとゴルジュを抜けたようで、4~5mほどの小滝から上は空がいっぱいに広がり、眼前に奥壁をやっと望むことができた。

 

水晶沢出合付近と思われるところで休憩した。時間は11時すぎ。奥壁を眺めていると、あらためてここでひと晩を過ごせないことを残念に思ったが、予定よりも早い時間に奥壁へ到着することができたので、日帰りは問題なさそうでホッとした。しかし、奥壁基部が予想どおり厚い雪渓で埋め尽くされており、大規模なブリッジを形成しているのが見えたことから、大きな不安が急激に首をもたげることとなった。

 

近づいてみるとブリッジの奥は光が差しており、長いトンネルを形成している。200m以上はあろうか。前後で切れ目があり、前半の3分の2くらいは非常に薄く2か所窓が開いており、後半の3分の1は3mほどの厚さ。崩れるのも時間の問題だろう。側壁をトラバースして本谷に復帰するのは至難の業に見え、危険な時間帯ではあったが、本谷を遡行するにはブリッジをくぐるしかない。何が正しい結論かは悩ましいところであるが、急いでくぐることにした。

 

雪渓からとめどなく滴り落ちてくる雨を浴びながら、そっと小走りで5分で駆け登った。これほど緊張感で追い込まれたのは初めて、というくらい嫌な緊張感を味わった。 

 

 

その後、本谷ルンゼを快適に登った。正面ルンゼの手前で小さなCSが挟まった箇所があり、ここだけは少し悪かった。 

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正面ルンゼを分けてからは本谷ルンゼを2俣と思われた箇所まで登り、フリーなのでこのままではあっと言う間に奥壁が終わってしまうと思い、すこし休憩した。ちょいちょい振り返って来し方の谷を眺めた。ルートは好きにとれるが、簡単なほうへと登っていたら、いっとき藪に入ってしまい、トラバースして本谷左俣と思われた水流に復帰した。

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キレイなスラブを選んで登っていくと、だんだん傾斜が落ち、ゴツゴツとしてくる。草付きが増えてきてからさらに傾斜が落ち、ほんの少しだけ藪をこぐと登山道に出た。とりあえず登山道をそのまま山頂に向けて歩き続けた。

 

 

13時40分に御神楽岳山頂についた。

 

山頂から湯沢ノ頭、水晶尾根を結ぶ稜線下に連なる奥壁を臨んだ。こうして見ると、登った本谷ルンゼ付近の傾斜がかなり緩く感じるから不思議なものだ。基部から見た際には登るのを躊躇するくらい立って見え、登ってみるとほどよく感じたものだが。

 

登山道を下山し、途中の湯沢ノ頭から奥壁を。登ったラインをうっすらと確認できた。おそらく本谷左俣本流筋から少し右に逸れて稜線まで詰めあがったように思われた。

 

高頭を過ぎてからは、ずっと湯沢奥壁を右に見ながら下山となる。ちょうど湯沢奥壁を真正面から臨む位置で、全体像を撮った。御神楽沢奥壁よりも厳しそうな様相だが、こちらも機会があれば登りに来たいものだ。

 

登山道は点線ルートだけあり、それほどスピードを上げられるものではなく、何度も立ち止まって湯沢奥壁を撮りながら、ゆっくりめに下った。湯沢出合からは平坦なのでスピードを上げ、最終的には小走りになって駐車場まで駆け戻り、13時間の行動を終えた。

 

天気の都合で日帰りとした御神楽沢奥壁。軽装でこの偉大な奥壁を駆け抜けるのも、悪くはないと思いはするが、それができたのも、いくつかの記録を拝見して日帰りでも十分トレースできると感じたからに過ぎない。 その意味では、日帰りできたからといって、そこに特筆すべきものは何もない。お山を駆け巡った充実感はむろんあるが。

思うに、しかしやはり奥壁基部で一夜を過ごす喜びは捨てがたいもので、可能ならそちらを選ぶべきである。

御神楽沢は全体を通じ会越の美しい(そして虫だらけの・・)自然を味わえるが、あえて大きく印象的な内容を選んで記すならば、美しくもちょっと厳しめの上部ゴルジュの通過と、雪渓さえなければ快適そのものの奥壁登攀と、2つを挙げることができるだろう。

奥壁は言うまでもないが、ゴルジュも甲乙つけがたく素晴らしいので、残雪期の雪渓アプローチで奥壁だけ登攀ではなくて、やはり雪渓が消えてから全部遡行する感じで来るほうがよいと思う。今回は昨冬の寡雪から9月末でも問題ないと考えたが、予想外に厚く雪渓が残っていた。雪渓の状態によっては撤退を余儀なくされかねないので、適期は10月になるだろうか。一方で、今回は気温が高く、いくら水に入ってもさほど寒くならなかった。寒いから水に入りたくない、となると途端にゴルジュでは困難が増えそうなので、この点ではよかった。

ロープは御神楽滝と、上部ゴルジュで数回出し、プロテクションはハーケン主体、また2度ほどCSにスリングを回してとれた。カムも小さめサイズが使えた。奥壁ではロープを出していないが、見る限りあまりよい支点はとれそうではなく、いずれにしてもハーケン主体になると思われた。

パートナーのイケイケクライマーのWさんにも何度も助けられて、憧憬の沢を遡行することができた。 ありがとう!

 

蝉ヶ平(4:05)~湯沢出合(4:55-5:20)~御神楽沢出合(6:20-6:35)~御神楽滝(6:45-7:25)~中ノ大滝(8:35-8:45)~上部ゴルジュ(8:50-11:05)~水晶沢出合(11:10-11:30)~稜線(13:20)~御神楽岳山頂(13:40-14:20)~湯沢出合(16:45)~蝉ヶ平(17:20)

装備:ダブル50m1本、ハンマー、ハーケン薄刃4・アングル2、ULマスターカム0~4