隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

西頚・権現岳東壁

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万年雪に駐車して見上げる権現岳東壁。まじかで見ると思っていたよりずっとでかいなぁ。いやぁなんか悪そうだぜ・・。思わず「唾を呑む」とはこのことか、って感じでゴクリと唾を呑む。下部はぶっ立っている。上部はどこまでもゆるスラブが続いている。クライミングシューズをゆとりのあるTCプロと攻めたサイズのアナサジプロと持ってきていたが・・、ぶっ立った壁を見たらどう考えてもアナサジプロを選ぶしかないな。あとで登っている途中に知ったのだが、実はOさんも2足持ってきていて、攻めたほうを選んだんだって。お互い無言で同じことをやっていてちょっと笑える。長ーい上部スラブはつま先が痛くなりそうだけど、そこまで辿り着かないことには始まりませんからね!

ルートどうするか、珍しく結構マジメにOさんと打ち合わせした。Oさんと僕は色々と一緒に行ってて分かり合えてる仲なので、普段からそれほど意思疎通しなくても問題ないのだ。壁を縦に割ったチムニーの右か左か。遠くからパッと見するだけでは何とも言えない。しかしこの手の、雪崩で削られて出来たスラブ。ボルトでもなければよいプロテクションがなかなかとれないであろうことは、遠目にも分かる。とりあえずハーケンと、小さめのカム、ボールナッツ、といういつものセットを持っていくことにする。ロープを出す段階で、なるべく危なくなくて身の丈に合ったラインを改めて選ぶことにして、出発。・・・と、ゴーロから簡単なボロい涸滝を登ると、あっと言う間に取り付きに到着した。チムニーを左右に見上げると、左壁にボルトが見える。右壁はう~ん・・・。ボルトが見えりゃ左に行くしかないでしょう。

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1ピッチ目:15mⅣ Oさん。壁と草付きのコンタクトラインを左上していき、トラバース。トラバースは結構バランシーでそんなに簡単ではない。その後ブッシュを回り込んで少し登ると壁がワーッと眼前に広がりビレイ点に着いた。

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取り付きチムニーの左右/左フェースへの登り出し

2ピッチ目:30mⅤ 核心ピッチは暗黙の了解?で僕が登らせてもらった。ビレイ点から見上げると逆層のハングが段々になって立ちはだかっている。まずハング下までボルトが2本見えたのでそこまで上がり、ハングを直上してみるラインを探るが・・・、登れば登れそうではあるが、自前ではプロテクションはとれそうにない。体勢を色々とかえて上方を伺うが、段々の形状と逆光で視界が悪く、支点の有り無しの状況は全く分からない。一方、ハング下は緩傾斜が右上しておりカンテまで簡単にトラバースできそう。なるべく危なくないほうのラインで行きましょう、とOさんと意思疎通して、トラバースを選択した。ここからかなりランナウトする。なんというか、いろいろなことを考えながらカンテを登る。まったく効いていないカムと浅打ちの残置ハーケンを心の支点として、最後のボルトから10~15mほど?伸ばすと、やっと信頼できるボールナッツが決まった。そこから巻いたハングへトラバースして戻ってみると、足下にボルト2本のビレイ点が見え、かなり怖いクライムダウンでやっと辿り着いた。最後のボールナッツの支点でロープの流れが屈曲してえらく重たかった・・。

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アンカーから段々ハングを見上げる/2ピッチ目終了点

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ハング下を右トラバース

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終了点からハングを見下ろす

3ピッチ目:50mⅢ Oさん。ビレイ点から草付きスラブを右寄りに登っていき、そのまま中央チムニーを辿って落ち口(?)へ。落ち口といってもチムニーだが、なんと長細いヒルがうねうね動いている水溜まりがあり、ここを落ち口を勝手に決めた。支点は構築不可能なのでOさんは腰がらみで僕を受け入れてくれた。

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スラブから草付きへ/チムニーの落ち口へ

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チムニーから見下ろす

そこでロープを仕舞って休憩タイム。ここから長いスラブ登りである。最初は草付きが多く、沢筋を拾いながらスラブがなるべく露出しているところを目指して、左へと動きながら登った。そのうちルンゼ(上部でY字になっているルンゼ)の右側を延々と登ることにした。最初は草付きが多かったが、やがて段々状のスラブになりちょくちょくテラスが出てくるので休憩しながら登った。予想どおり攻めたクライミングシューズで足が痛い。さらに登ると最後のほうはフリクション系のスラブとなった。長時間フリーで登っていると感覚が麻痺してムーブが無駄に大胆になってくるので、意識してゆっくり着実に登った。最後はスラブは藪に消えるが、そこはおあつらえ向きのテラスになっていて、大休止。ガンガラシバナのテラスを思い出す、気持ちのよい終了点だった。

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スラブが延々と続く
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スラブ終了のテラス/詰めは短い藪漕ぎ(毛虫に注意!)

ごく短い藪漕ぎで登山道に出て山頂へ。山頂からは日本海も見えるし、雨飾山も見える。さらにずーっと向こうに鹿島槍も見えるようだ。山深い雰囲気を濃厚に醸し出しているお山だが、ふもとは集落だし、糸魚川の町もすぐそこ。山頂には電波塔?も立っている。それにスラブを500m近く登ってきたのに山頂はたった1104m。不思議なお山だなぁ。でもなんて落ち着くところなのだろう。とても気に入った。

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さて下山はなかなかハイグレードな登山道。普通の登山者には全く勧められない険しい道筋ではあるが、新潟のお山はどこも素晴らしく整備が行き届いており、ここもぶっといロープがビシッと張られていた。胎内洞というヘッデンが必要な洞窟くぐりもあった。信仰のお山であり、山頂から近くにお堂があった。地すべりや雪崩の災害や、この4つの雪崩溝を里にほうにまっすぐ向けた山容から、信仰せずにはいられないお山なのだろうか。登るときには胎内洞で身が清められてお堂に至る、ってことなのかな、などとOさんと話した。

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登山道からスラブを見下ろす/ヘッデンが必要な胎内洞

登山口からは意外に長くて疲れる林道を万年雪の駐車場に戻る。途中でパトカーが通りがかり、クマに注意するよう言われた。今朝、ワナに一匹かかったといい、まだ付近にいるそうだ。しばしホイッスルをピーピーやりながら歩くと、やがて東壁が近づいてきて、ジーっと壁を見つめて登ったルートを復習して、写真を何枚も取り直しているうちに、万年雪についた。

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万年雪の看板

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登ったルートはこんな感じでしょうか?

 

権現岳東壁。初見であのハングのど真ん中をフリークライミングする次元に僕はいなかったが、弱点(とはあまり言いたくない。一番登りやすいところ、かなぁ)を辿って、きちんと上まで抜けていくこと。そのためにできることを一つずつ考えて登ること。こうしたポジティブにコントロールされた登攀ができたことが、とても嬉しい。登攀で充実感を得るのは実に久しぶりだ。

この頚城のスラブは越後のスラブよりも一ランク難しい気がする。支点のとりづらさはもとより、脆さや独特のザラザラ感があり、不確定要素がひと際強い。登るごとに支点がとれたり、誰かが登った軌跡が残っているようなルートではなくて、一手一手、また一歩一歩、自分で考え道を拓いていく必要がある登攀・・みたいな。こんなところで登っていたら、普通のメジャーな無雪期登攀ルートはとても簡単に感じるんじゃないだろうか。参考にさせていただいたアスターク同人はすごい・・・いやホントにすごい。トポも参考にしたが、初見でトレースはとてもできなかった。

このあたりにも年に1~2回は来て、スラブ好きなのでMyスラブリストを増やしていきたいものですね。

 

万年雪(8:55)~取り付き(9:05-9:25)~チムニー落ち口(11:35-11:55)~スラブ終了テラス(13:00-13:15)~権現岳山頂(13:30-13:45)~登山口(14:55)~万年雪(15:30)

装備:ダブル50m×2、ハーケンハンマー、カム小3、ボールナッツ3 

参考:アスターク同人