隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

雨飾山 フトンビシ右岩峰中央稜

 

「布団菱」という訳の分からないネーミングは以前から気になっていた。偵察がてら見に行こうと思って、2か月前の8月に荒菅沢を遡った。しかし時期が早すぎて、ゴルジュは崩壊した雪渓で通過できず、フトンビシの岩峰に近づくことができなかった。まぁいつか登りに行こう・・、と思った。

それから2か月経ち、AさんとNさんが行くと聞いた。図々しく頼み込んで、急きょ混ぜてもらった。ありがたかったなぁ。いつか行こう、と思っていても、無為に時間が経つと、あー、かつて行きたかったなぁ、に変わってしまうかもしれない。それが急に実際行けることになって、正直いって驚き、にわかに不安を覚え、頑張るしかないなぁと殊勝に思ったりした。

 

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登山道の見晴らしテラスからフトンビシ右岩峰の全景

 

8月に雪渓で通過を諦めたゴルジュは、さすがに10月だから雪渓のカケラもなく容易に通過した。

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取り付きに着いて、上方を臨む。

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ラインは左の藪際の流水溝状と、右の白い本流と2つとれる。深くは考えずに簡単そうに見えた左を各自フリーで登り出した。ある程度上がると、昨日の雨の影響で結構濡れていて悪くなってきたのでロープを出した。1~6pは私がロープを引いた。

1p:40m スラブを直上し、木でアンカー。

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2p:50m 右にトラバースして本流に移動できないか探ってみたがちょっと悪そうだったので、目の前のスラブをどんどん登っていくことにした。傾斜が緩いところに出て、木でアンカー。

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3p:60m 目の前にキレイなスラブが出てきて、それを登る。50mほど登ると木で支点がとれ、そこからは藪漕ぎ。このままこれを登って行ってフトンビシ中央稜のリッジに辿り着けるのか分からなくて、ちょっと不安になる。背伸びして藪ごしに遠くを見ても、リッジの上方が遠望できるだけで、詳細はよく見えない。

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スラブから藪漕ぎに入り、背伸びして向こうを見ても、奥がどうなっているか見えない。とりあえずこのラインを進むしかないね。

 

4p:60m 藪をどんどん登っていくとリッジになり、さらに藪をこぐと砂地と浮石のコルに着く。見上げると角みたいなピナクルが並んだリッジが、まさに眼前に見える。登ってきたラインは間違っていなかったらしい。右側を見ると、右は右で本流からのスラブがリッジ状に収束している。右稜と左稜とあって、私たちは左稜を登ってきたようだ。

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右側に本流スラブを見下ろす。

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見上げればようやくフトンビシの美しいリッジが眼に飛び込んでくる。



5p:30m リッジを目指してスラブをさらに登る。ここはカムで支点がとれる。最後はルンゼになり、リッジに出ると、リングボルトが3つ連打されたテラスになっていた。

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6p:20m ここからがリッジのラインである。最初は意外に残置があってちゃんと効いている。左から回り込んだり、リッジに馬乗りになったりして進み、ボロくて難しめのワンムーブをこなすと、ハーケン3本に残置スリングがかかった狭いテラスについた。そこからはまた一段と悪そうなので、短いがここで切った。

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7p どうやらここから様相が違う。ここからが核心らしい。残置も見えない。支点はピナクルに回したスリングだ。いくらか進むと、リッジの左右は切れ落ちて、なんなら若干前傾している。足がおけそうなスタンスに軽く体重をかけたら崩れ落ちた。リッジは・・、なんか若干揺れている。20㎝くらいの幅のリッジに馬乗りで進むしかない。逡巡・・・、かなり逡巡する。手と足の位置取りを決めて馬乗りに行こうとするが、どうしてもふんぎりがつかない。だってこの先のほうがさらに悪そうで、ひとたび行けばもう戻れないんだもん。そのうち、なんか自分は行ってはいけない気がしてきた。後ろのピナクルに回した長スリングのカラビナの位置を無駄に調整したりして、その場で右往左往した。はっきり言って心底ビビった。認めざるをえない。ボクはここから先には行けないらしい。チキンって言われてもしょうがないよ。それに、正直いってパートナーにもこのハイリスクなリッジを登らせたくない、と思っちゃった。ホントにそう思ったんだ。それで、左下のスラブに下りてこのリッジ巻きませんか、と言った。

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パートナー2人はアンカーから懸垂で、私はピナクルにかけた長スリングを残置して10mほど懸垂して、3人合流した。こんな怖い懸垂は初めてだった・・・。

 

改めて7p:60m メロメロになった私はお役御免で以降サード。懸垂で下りたスラブを、Aさんがロープを引く。なんとAさんは今回2回目、41年ぶりのフトンビシなのだ。師匠だよこりゃ。さすが安定したリードである。大系ではこの巻きルートが記載されているが、残置は全くなく、雪崩に流されてなくなってしまうようだ。ボロさがえらく増してくる。スラブからルンゼに入り、ロープいっぱい伸ばしてリッジに戻る。ルンゼのボロさはさらに相当で、硬い部分を掘り起こして登る。

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8p:60m リードはNさんに交代。ボロボロのルンゼの続きを登るとリッジに出る。あとはリッジをロープいっぱいまで伸ばす。ルンゼもリッジも登るごとにボロくなっていく。特にこの角礫凝灰岩のルンゼのボロさ強烈だ。短い時間でサクッとリードしたNさん、すげ~、とAさんと私は思わず感嘆。

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9p:60m 引き続きNさんリードで最後のリッジを登る。藪漕ぎになりもう一度短くリッジを登ると、あとは藪。ロープいっぱい漕ぐと傾斜が緩くなる。これがラストピッチだ。

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リッジの終わりで来し方を振り返る

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サードで最後にフォローした私を、頼もしいパートナー2人が迎え入れてくれた。マジで感動したよ。

 

藪漕ぎで登山道に出た。お疲れモードの3人は気持ちよく山頂を断念する。雨飾山がよく見える、この先端が三角の棒が刺さっている広場が、今日のお山の区切りになった。

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下山時、また見晴らしテラスからフトンビシを見やる。そっと登らせてくれてありがと。

 

フトンビシ右岩峰中央稜。結構シビアな登攀だったと思うけど、私たち3人は道中笑ってしゃべっての山行だった。7時間半もあんなボロ壁でよくもまぁ楽しく過ごしたものだ。

でも、目的のリッジ通しの美しいラインは登れなかった。下山も笑ってしゃべってだったけど、その一方で私の心の片隅では、登れなかったことについて色々な思いが頭のなかをグルグルしていた。いつまでもとめどなくグルグルし続けた。家に帰ってもまだグルグルしている。でもそんなことはいいや。

それより、Aさん、Nさんという最高のパートナーと一緒に登れて幸運だったな。私なんかにこんな山行、これからあと何回できるだろうか。この1回だけだったとしても、1回でもできてよかったと思えるような、最高の山行だった。

 

 

雨飾山高原キャンプ場(5:35)~取り付き(7:10)~登攀開始(7:35)~9p終了(14:55)~登山道(15:15)~雨飾山高原キャンプ場(17:10)

装備:ダブルロープ60m×2、カム×6(0~0.5)、ボールナッツ×2、ハーケン×6、ボルトキット

ルート☟

www.yamareco.com