隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

赤岳東壁・センターリッジ左スラブ~Aルンゼ

 

昼頃からガスが出る予報だ。5時。闇が白み始めるくらいに歩き出した。

 

林道が県界尾根登山道へと名を変え沢筋から離れていくところから、沢沿いの踏み跡を辿って軽く笹を漕いだ。朝露でもう腰から下はびっしょりだよ。傍流が多くて面倒なので適当なところから本流に入った。

 

でかいスリット堰堤に無数の倒木が突き刺さっている様相に軽くギョッとした。怖い・・・! その様相は三国志とかの大昔の戦場における木組みの砦を彷彿とさせた。実際のそれは見たことなどないのだが。砦から向こうを見上げると赤岳頂上小屋まで見渡せる。あそこまでフワっと飛んでいきたいなぁ、とふと思う。

 

堰堤ゾーンが終わり、荒れ果てた大門沢本谷から改めて進むべき源頭たる赤岳を見やった。ところで道中ずっと、何か忘れてきた気がしていた・・・、あー!!! ロープを忘れた。30mロープがザックに入っているはずだったが、ない。うーむ、ちょっとだけ悩む。登るために使う想定はなく、あくまで緊急時の下降用として持っているはずだったロープ。今日は撤退すべきかといえば、そうとは言えないと即座に思う。詭弁なんだけど、ロープの存在がロープの必要を産むんだよ。ロープを持っているから大丈夫、という過信によってルーファイが切実さを欠いた安易なものになり、結果として下降にロープがあってよかったという末路を招くのだ。ロープがなければルーファイは先々を見据えたものになり、圧倒的に切実で、まさに生きるために登ることになるだろう。まぁそんな大それた山行じゃないか。ロープなんかなきゃないでいいんだよ。

 

最初のポイントはC2,030m付近の分岐(下写真)である。右俣は真っすぐ伸びていて本谷に見えるが、しばらく進むと右へ右へと逸れて県界尾根に吸い込まれていく。正しいのは一見分岐にすら見えない左俣である。もっとも両俣の中間はゆるい樹林帯で容易にトラバースできるため、間違えて右俣に入ってしまっても修正は難しくない。私も間違えてしまったのだが、せっかくなので出合を確認するため来た道を戻って、左俣出合から進み直した。

 

本谷に入り歩いていると小さな沢音が聞こえ始め、流水が生まれた。普通の沢歩きで内容も大系遡行図とほぼ合致する。全体的に大系遡行図がけっこう正確で、びっくり。

 

やがて小さな門のような小滝が出てきて、これを簡単に登ると、

 

C2,230m二俣。大系のいう「二俣」であろう。両俣の中間は東稜の末端のようだ。ちょっぴりおどろおどろしい空間である。

 

右俣は2連小滝から始まる。滑っているので慎重に。左岸上方には今にも落ちてきそうな小さな岩塔が屹立していた。

 

小滝を抜けるとゴーロ。この辺りはナメ床状の岩盤が転石で埋まってゴーロ化したようだ。

 

黒く、細く、短いナメ状の小滝がいくつか出てくる。通過に困るものはない。

 

C2,400m付近で顕著な二俣っぽい地形に出た。が、右は明らかに枝沢だろう。左へ進む。

 

ごく短いゴルジュの中に同じような黒い小滝を架ける。

 

やや荒れた広い沢床になり、

 

岩肌を濡らす程度の水流。奥は両岸が一気に迫ってくる。歩き以上クライミング未満で進むと、

 

C2,470mで両俣が滝になった二俣。これが「奥の二俣」であろう。両俣の中間は大系によるとセンターリッジから降りてきた尾根筋か・・、ただ、「センターリッジ」は地形的な尾根というより、奥壁のリッジ部分の呼称というべきだろう。そのため、この尾根が実際にどこへ向かって伸びているか、あるいは切れて終わっているか、ここでは分からない、と思ったんだけど実際はどうかね。

 

(左)左俣は岩を濡らす小滝の奥がドーム状になっていて突き当りに数mの滝が見える。(右)右俣は出合滝が垂直かつ多段の滝になっている。

 

大系では「10mのハングした大滝」、山登魂の記録でも「ハングしている」と記録されているが、ハングはおそらく崩壊したと見られやや前傾した箇所がある程度。眺めていると左側の右上ラインで登れそうに感じ、そのまま離陸しそうになったが・・、「待て待て」と思い直して降りた。足がスメアで手が縦ホールド多め、とバランスが悪そうで、追い込まれるかもしれない。分相応に巻くことに・・。

 

10m大滝の巻きは中間尾根末端付近から木登りで上がり、あとは微妙に残る踏み跡を木をつないでトラバース。ちょっと悪めだがラインは比較的分かりやすい。落ち口には慎重にクライムダウン。写真は落ち口から見下ろした、の図。

 

おお、ようやくAルンゼに入った、ということだ! 頬が緩むのを禁じ得ない。やっと来たねぇ。荒々しいゴルジュに小滝が架かるが、どれも通過は容易でホッとする。あとはこのAルンゼを間違えずにどこまでしっかりとトレースできるかだ。ところで、確かにゴミがすごい・・。スキー板とかヘルメットとか色々なものが・・、とても拾えるようなものではなく、素通りするしかない。

 

ゴルジュが切れ、C2,580m付近で4俣地形。今回の山行で最も大きなターニングポイントになった場所である。さて、4俣とは言っても、地形的には手前からこんな感じだ。①左岸枝(すぐ消えそう)、②左岸枝(大系遡行図の枝?)、③本谷?(ゴルジュだから)、④右岸枝(東稜に消えていく)。したがって、③を選ぶのがAルンゼを進むためには正解だと分かっている。しかし・・、見上げれば「赤岳東壁」と思しき壁が②の枝沢の真っすぐ上方に聳えているのだ。壁を登るわけじゃないけど、壁に向かって進んでいきたい・・と衝動的に思うのは、この場所ではとても自然なことだろう。正解のAルンゼゴルジュに入れば壁とはお別れになる、と山登魂の記録から知っているから、その衝動はなおさら意味があるものに感じたりもする。うーむ、ちょっと悩みタイムに突入。・・ていうか、結論は悩むまでもなく出ている。ロープは持ってないので、②をクライムダウンできる範囲で進み、無理そうなら中間尾根からAルンゼにエスケープ。じゃ行こうよ。

 

少し登り、Aルンゼとの中間尾根(東壁左岩稜?)から奥壁を見やった。あの手前のスカイラインがセンターリッジだろ? これを見て自分の判断が冴えてるなと思ったね。

 

こちらは左のAルンゼ方面。竜頭峰らしき方向に一気に登っている。よく見えないが、Aルンゼとしてはどこかで右に分岐しているのだろう。

 

ルンルンで細めの沢筋を登る。なんの困難もない。

 

沢筋は小規模なスラブで途切れる。これを登ると、

 

草原を割って伸びていく流水溝になる。

 

流水溝はすぐ終わりスラブになる。ところどころ傾斜が強く、脆い箇所があり、そこまでスタコラしていないスラブだ。右側がセンターリッジ、奥が奥壁かね。

 

センターリッジを右手に通り過ぎ、あらん限りの慎重さでスラブを登り切ると、

 

奥壁の基部にアンカーのリングボルトとハーケン。ここは奥壁への取り付きのようだ。足元が不安定なのでセルフをとって休憩し、念のため持ってきていたクライミングシューズを履いた。もちろん壁を登るわけではないけど、スラブの傾斜がさらに強くなっていたんでね。

 

ここで壁を巡る散歩は終わりだ。壁基部のスラブを左上し、ブッシュから中間尾根を乗越し、Aルンゼへトラバースするポイントを探る。スラブは傾斜が強めなのでちょっとだけ気合を入れた。一歩だけ悪かった。

 

最後に「センターリッジ左スラブ」を見下ろした。

 

ブッシュに入ると傾斜が増し、まさかの垂直木登り・・。ただ垂直は3~4m程度で、登り切ると尾根の乗越ポイントに入った。

 

乗越ポイントからAルンゼ方面を見やる。獣道が付けられていて、それほど労せずにAルンゼに合流できそう。ふふ、こういう感じのは得意なんだよ。

 

Aルンゼに降り立ち見下ろす。薄々感じていたが、センターリッジ左スラブを登ってかなり標高を稼いでしまったので、Aルンゼももうスラブが終わりに近い。まあいいだろう。

 

上を見上げれば八ヶ岳って感じのなんかボロそうな見た目。いいね。

 

一応慎重にこれを登ると、

 

赤岳頂上小屋が見えた。あー、終わりだー。

 

最後に憧憬の「Aルンゼ」を見下ろした。来ることができて、本当によかった。

 

数年ぶりの赤岳山頂。一応3分くらい滞在。

 

絶景のベンチでのんびり休憩し、県界尾根をバーっと下山した。

 



県界尾根登山口(5:10)~大門沢入渓(6:00)~二俣(8:00)~奥の二俣(9:05-9:25)~C2580m4俣(9:55)~東壁奥壁基部(11:10)~Aルンゼに乗り換え(12:10)~赤岳(12:40-13:10)~県界尾根登山口(15:10)

装備:ハーケン・ハンマー(不使用)、ロープは忘れた

参考:大系、山登魂2008/10/4記録

ルート☟

 

 

沢から入ってピークまでシンプルなラインで登る、という登山が好きでやろうとしているわけですが、この「大門沢奥壁」ともいうべき「赤岳東壁」を見ながら、赤岳山頂までほぼ一直線に登っていくラインは、以前から大変魅力的に思っていました。春も秋も登ったっていう仲間からも超オススメって言ってもらってて、めちゃくちゃ行きたいルートにランクインしてたんですよ。今回ひさびさにとってもよい登山ができた気がすよ。いやー、満足。一人寂しく、実に楽しかったなー。登山は一人が気楽で一番いいな。

 

<メモ>

大門沢下部から遠景。赤が大門沢本谷からAルンゼ。黄色は私が辿ったセンターリッジ左スラブ経由のライン。壁の真ん中で影を作っているスカイラインがセンターリッジ。

帰りの登山道から見下ろした遠景。C2,030mあたりで左へ入るのが本流。ただし間違えて右を進んだとしても、途中から樹林帯を容易にトラバースして本流に復帰可能。

C2,580m4俣。①はすぐ終わりそうに見えたが、登れば②に合流していきそう。②は私が辿ったセンターリッジ基部へと一直線に登っていくライン。③が本谷で、ある程度進むと右へ分岐があるはず。左に進むと竜頭峰のほうへ離れて行ってしまう。④は赤岳東稜へ吸い込まれていく。

おわり