隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

奥秩父・中ノ沢~青笹尾根

名前のとおりナメが連続するナメラ沢と、原生林や笹原が美しい峠沢沿いの登山道、ポピュラーなこの2本に挟まれているのが「中ノ沢」である。中ノ沢沢登りの記録をまったく見ない。たしかに地形図を見ると源頭は崩壊記号が多く、沢は荒れて埋まっていると思われた。きっと単調なゴーロ歩きに終始することになり、沢登りするほどの魅力がないのだろう。

ところで、中ノ沢の西側にある「青笹尾根」は奥秩父で歩いてみたい尾根の一つだった。尾根の末端は道の駅みとみからほとんどダイレクトに始まっていて、破風山まで大きな支尾根が合流することなく、長くすらりと伸びている。名前のとおり笹原が美しい尾根なのだろう。

中ノ沢と青笹尾根。せっかくだからセットにしましょう。どちらも夏の時期は優先順位が低くなり行く機会がなかったが、中途半端な時期である初春の今がその機会となった。

 

 

みとみから林道を歩き、沓切橋から枝沢を下降して入渓。昨日の雨の影響でまだ全体的に濡れている。多少増水しているようだ。
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小滝を右から越える。
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ナメラ沢・中ノ沢二俣。水量比はナメラ沢のほうが少し多いか。右俣の中ノ沢へ進む。
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下流域の日当たりのよいやや広めの沢床。積雪はすでに跡形もなく、ただ緩やかに登っていくゴーロを、予想どおり粛々と歩くことに。
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出合から30分ほど歩いたC1530あたりで、転石の具合で3mほどの滝になっているところが一か所だけあった。
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C1600あたりから、ふと気づくと沢は特に左岸側が大きくえぐれている。荒天時の押し出しがそれなりにパワフルなようだ。見た目的にもゴーロの沢というより、土砂が沢床を削ってガレが残留したような様相。砂防堰堤があるわけでもないため規模は小さいにしても、上部の崩壊具合は思ったよりも激しいのかもしれない。
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C1720二俣。水量比3:2。本流は左俣だがずっと変わり映えしないガレが続いている。右俣は崩壊に消えていく支流だがすぐそこが6~7mの滝になっている。せっかくなので変化を求め、右俣を覗いてみることにした。
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右俣出合からすぐの段々状滝。これの向こうはどんな光景になるのかなと思って、わずかながら期待して右岸から滝を越えると、
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やはりというか、落ち口からいきなりガレに埋まっていた。こっちをこれ以上登っても仕方ないので戻る。
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二俣に戻って左俣本流のガレを見やる。
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ちなみに振り返って下流側を見ても同じガレ。
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ガレガレと思っていたら一か所だけ地層が表出していて水流がキレイになっているポイントがあった。全部こんな感じだったら楽しい沢登りになるんだけどね。f:id:Kakuremino:20220330142906j:image

 

そのポイントを越えC1800あたりから両岸が狭まり、崩壊具合が強烈になってくる。緩い気分でゴーロ歩きしようと思って来た身としては、精神的に少々重荷だ。また少しずつ残雪が見られるようになった。
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C1880奥の二俣の若干手前。なんと、左岸が大規模に崩落している。昨日の降雨でまだドロドロで黒光りしているのも相まって、かなりおどろおどろしい雰囲気を出している。上方で5m級の岩がいまにも落ちそうになっている。そのまま進むのは危ない感じなので、手前で左岸側の斜面を少し登って崩壊面をひとしきり観察した。自分のなかのタイミングで50~60mほど先の安全地帯まで走って通過した。
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振り返って崩壊面を見やる。おどろおどろしさは写真では伝わらない。奥の二俣は、右俣支流は崩壊が著しく進入できない。またここから枝尾根にエスケープするのも難しく、左俣本流を進みながらエスケープポイントを探ることにする。
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雪は完全にグサグサなので壊せるところは壊して足元を確認しながら進む。
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ゴルジュになりエスケープポイントがなかなか見つからない。さらに進む。
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C1940奥の奥の二俣。本流は左俣で東破風山へとダイレクトに伸びているが、グサ雪と半端な氷に覆われたガレ沢は一気に斜度を増して最後は崩壊記号に終わっていくため、選択しない。危ないと思う。沢登りはここで終わりだ。エスケープしましょう。しかし眼前の左右俣の中間尾根はかなりボロボロで急峻なため却下だ。ルンゼになっている右俣支流をある程度登れば、左岸側が樹林になっていてよさそうだ。稜線までの詰めの距離も最短だし。それで行こう。
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ルンゼを登る。アックスは1本しかないし、氷は薄い。左手で右岸のボロい岩を慎重に見極めて持ち、右手は氷に刺したアックスをプッシュ気味にあまり体重をかけないように保持する。チェーンスパイクを履いた沢靴で蹴り込んでスタンスを確かめ、最悪落ちても着地できそうな体勢を維持しながら苦しく登った。ちょっと危なかった。
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さらに、不安定な氷を避け、ボロくてドロドロの岩を剥がして固い部分を掘り当てて、安定した立ち木まで登る。
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左岸尾根は見立てのとおりよさそうでホッとした。
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急斜面に消えていくらしい右俣支流を最後に見やった。
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あとは、夏であれば苔むして美しいであろう樹林帯をサクサク登り、
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C2180付近のシラビソが立ち枯れた登山道へ抜けることができた。
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えー、登山道はトレースなし。雁坂峠の登山道、かなり好きなんだけど、人気ないんだな。いや、しばらく前のものと思しき消えかかった足跡のみ断続的に見られた。踏み抜きまくる腹立たしいラッセルをヘロヘロでこなし、
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あー、や、やっと・・、
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1時間半かけて破風山ピークに到着した。時間は13時半。とりあえず大休止。
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では青笹尾根下降へ出発、と思ったが、特に何も調べていなかったため、積雪で尾根道?への入り口も分からない。とりあえず軽く藪を漕いで尾根に向かうと、登山道のような踏み跡がすぐ出てきて安心した。
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そして最高に視界が開けた露石帯。ごく小規模なものだが、なんだか槍ヶ岳から中岳を経て、稜線から天狗池に向けて露石帯の尾根を下ったときを思い出した。視界良好でとても楽しかった。破風山ピークも好きだが、ここで休憩してもよかったな。眼下に霞がかかった広瀬ダムが見える。
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登山道とまではいかないまでも、ピンクテープが連続している。
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雪がなくなり笹原が出てくる。あまりの気持ちよさにまた大休止。笹が青くなった時期にまた来たいと思ったり、紅葉の時期にも来たいと思ったりした。この辺の尾根で一番好きかも。C1657.2ピークで明瞭な分岐があり、鶏冠山大橋へ向かうルートと、おそらくナレイ沢の林道へ向かうルートがあるようだ。
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右手にカラマツ林を見ながらキレイに整備された防火帯を下り、
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国道に出て、ひとたびは尾根通しに下れないかと鶏冠山大橋をくぐってみたりしたが、やはりキャンプ場に下りていくのもなんかなーと思って国道に戻り、ふと見たら道の駅みとみがすぐそこにあったので、バーッと下って終わりにした。
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中ノ沢は記録がないのも納得、という感じだったが、上部では意外なほど崩壊が激しくピリリとした緊張感があった。一方、青笹尾根はとても気持ちよかった。静かで、変化があり、徳ちゃん新道がある戸渡尾根をこちら側から眺めるのも新鮮だった。春夏秋冬歩いてみたい尾根になった。

ではまた。

 

 

道の駅みとみ(6:30)~ナメラ沢・中ノ沢二俣(7:55)~C1720二俣(9:10)~C1880奥の二俣(10:05)~C1940奥の奥の二俣(10:35)~C2180稜線(12:05)~破風山(13:35)~起点戻り(16:45)

装備:25mロープ、アックス1、チェーンスパイク、クランポン、沢靴

ルート☟