ここは糸魚川市、日本海がすぐそこに見える不思議な豪雪の山域だ。わずかC807.2mのマイナーピーク「千丈峰」は、その北面に田海川の支流である倉谷を集水域としてもつ。倉谷源頭には「小ギラ」「中ギラ」「大ギラ(スラブ群)」という顕著な雪崩スラブがあり、地形図でも小ギラと大ギラは明記されている。
1泊で大中小と登るつもりだったが、天気の都合で日帰りになった。中ギラは割愛し、小ギラから大ギラと、スラブ2本をつないで登る計画にした。
林道スペースに停めて出発。
廃道を歩いて適当なところから入渓。
すぐに倉谷本流から左俣に分かれる「小ギラ沢」に入ると、唯一のちゃんとした感じの滝。右巻き。
なんか地盤が赤い。
一瞬だけ岩々しい。
・・などと楽しく歩いていると、C360mくらいで二俣。「小ギラ」に詰め上げるにはこのへんで右俣に入っていく必要があるのだ。その右俣は、"手前の右俣"と"奥の右俣"と、2箇所連続している。どっちを選ぶのか。小ギラにダイレクトに詰め上あげていくと読める"手前の右俣"をとりあえず進んでみたが・・。下の写真のとおりすぐになんか小悪そうな20mくらいの滝が現れた。ふん、苦労したくないので、戻って"奥の右俣"を進みなおすことにした。
奥の二俣は滝もなく、新緑の沢歩き、の図。しかし・・、
「小ギラ」へ向かうためには右へと登っていきたいのだが、よい登路がない。やがて急登になり視界が開けた。地形図に示されている小規模な崩壊記号に出たようだ。
100m程度の緩い「崖」。これを右へ右へと登り、小尾根を乗越せば、きっと小ギラへ合流できるだろ。
僅かな藪漕ぎをこなすとすぐに・・、藪の隙間からスラブが見える。あー、あれだ。近づくにつれスラブは大きくなってく。いいぞ・・、走りたくなる気分を抑えて藪を漕ぐ。
小ギラに乗った。見ての通りだ。何も言うまい。ただ、スタコラ登るだけだ。
小ギラが終わり藪に入る。千丈峰の展望のないマイナーピークまで稜線を30分程度の藪漕ぎ。思ったより漕ぎやすい藪で安心。
これがどうやら千丈峰ピークらしい?!・・素通りするわ。
そのまま稜線通しに藪を漕ぎ続け、C750m鞍部から「大ギラ沢」へと沢筋を下降する。
ふふ・・、いいぞ、大ギラ沢左岸のスラブ帯がそこに見える。手持ちの概念図に照らし合わせてみれば、きっとあれば第三スラブだ。順調ではないか。しかし、・・
本流は雪渓に埋め尽くされている・・。なんてこった。標高500m台でこんなに分厚く残っているとは思ってもみなかった。盛夏~晩秋しか訪れたことがなかったので、中途半端な6月の山域理解の不足を一瞬で悟った。
雪渓を挟んで眼前にスラブが見える。左右に分かれる形状から間違いなくあれが第三スラブであろう。雪渓を慎重に渡った。
沢筋は崩れかかった雪渓で埋まっている。本流を忠実に詰めようと計画していたが変更だ。安パイな眼前の第三スラブの右を登ることにしよう。なかなかどうして・・、第三スラブも下から見る限りこじんまりした雰囲気だけど、よさそうなスラブなんだよ。
出だしが微妙に傾斜があったので、パートナーが念のためロープを出してくれた。ほぼ50mフルでテラス。そこから上を見やれば・・、
あー、これが「ギラ」だ。そう思った。あー、ただスタコラ登るだけだ。勘違い野郎と言われても全然いいけど、山域理解不足のこともすっかり忘れ、自分はいま山に受け入れてもらっているなぁ・・、と感じた。いいぞ、あなたの息吹あなたの感触、分かる・・、分かるぞ・・・。ふふ。
おえつらえむきの大テラスが用意されている。休憩しようよー、とパートナーに頼み込んで頭からっぽの時間を過ごす・・、の図。糸魚川の町と日本海を眺める
スラブの終わりから稜線に乗ると15分ほど藪を漕ぎ、下降点としていたC907m南方の鞍部。そこから西に下る沢(北ノ谷)を使って下山することに。
北ノ谷はちゃんとした沢下降だ。藪をつかんで斜面下降していたが、C750mで安全をみて一度懸垂下降。あたりは・・、ごく最近まで雪渓の下でしたという光景。この下降ではあきらかに雪渓処理が核心になる。
2回目の懸垂。雪渓は左岸斜面とのコンタクトラインで巻いた。懸垂が続く。
そして・・、
うーむ・・。趣味じゃないけど?
さらにもう一つくぐって・・、
ようやく林道に辿りついた。ここからまだ12㎞くらい歩いて車。2時間ほどかけて戻った。
登りながら思っていたこと。
難しさを追い求めるのが正しい、みたいなクライミングを苦しいと感じるようになったとき、その苦しさから解放してくれたのは、スタコラ登るのがスラブの醍醐味かも・・という、ひそかに憧れている先輩山屋が書いた、とある記録のなかの一言だった。彼には会ったこともないし、随分前に会える存在ではなくなってしまったのだけど、私は彼の記録の端々に影響を受けているし、敬愛してもいるのだ。マイナーピークに抱かれたギラを登れたことを、心のなかでまず彼に報告したい。なぜだかそうしたい気持ちに溢れているんだ。ホント最高のスラブだった。
・・そう、今日、そんなスラブを登った。
林道岡倉谷線スペース(6:50)~小ギラ沢出合(7:30)~小ギラスラブ(9:15-10:00)~千丈峰(10:30)~大ギラ第三スラブ右(11:30-13:00)~北ノ谷下降点(13:25)~林道福来口線(15:25)~起点戻り(17:50)
装備:ダブルロープ50m、ハーケンハンマー、小カム
参考:佐伯邦夫・著「豊穣の山」白山書房、2011;「富山起点!楽しい山登り」2018年7月29日 千丈峰 田海川 倉谷大ギラ
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