隠レ蓑

お山の日記と、日々の懊悩

五郎山ダイレクト

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五郎山南面全景。左端のスカイライン右側のフェース、ちょうど影になっているあたりを登った。ルート中残置は見られず、また岩壁すべてに人跡はなかったので、どうやら今回のA沼さん、M田さん、私の3人の登攀が、五郎山自体の初登攀だったようだ。

 

 

五郎山は長野県川上村、廻り目平から東側に小さな尾根を隔てたところにある。2132mの独立峰であり、小規模ながらも顕著な岩壁をもち、また隣にマキヨセと呼ばれる岩峰群もある。地形図には載っていないが、なかなか渋い登山道も整備されている。・・・などということは、実際に登りに行くまで全く知らなかった。というか、登るまで五郎山の存在も全く知らなかった。

とある縁があって山岳界の脆壁レジェンドのA沼さんと知り合い、今回は共通の知人であるM田さんの手引きで、どこか軽いとこ3人でご一緒して飲みましょう!と予定していた。もとは野猿返しの予定だったが、A沼さんから五郎山がさらりと提案され、M田さんも私も一も二もなく乗っかった、というわけ。五郎山はある時A沼さんのアンテナにびびっとかかり、偵察した結果、岩茸も苔もすごいが初登攀で登れそうだ、と分かっていたのだった。一方、M田さんも私も深く考えずに飛びついただけで、実際の登攀がどんなものになるかあまり分かっていなかったのだが。

ところで、小規模ながらまとまった岩壁があるこの五郎山は、なぜ小川に通うクライマーの目に触れなかったのだろうか。多くの人が長坂ICから車で行くと思われるが、途中で男山や天狗山は視界に入るが、その後廻り目平への分岐を右折するため、五郎山まで辿り着く人が現れなかった、のかもしれない。五郎山は右折せずそのままさらに3㎞ほど進む必要があるのだ。さらには、奥まったところにあるため遠くからは目にすることができない。川沿いの林道から登山道に入り、短いながらもひどい急登にあえいでやっと岩稜に出ると、ようやく小さな岩壁の姿を遠望できる。

私にとってはA沼さんもM田さんも今回初めてロープを結ぶ。なんと初めてが五郎山という、いいのか悪いのか分からないメモリアルな山行となった(笑)。

 

崩壊著しい林道を落葉したカラマツを愛でながら歩くと登山道入口。ここからいきなりなかなかの急登にあえぐ。

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マキヨセの岩稜を歩く。南側はすべて岩壁になっている。

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やがて五郎山が見えてくる。え、あれをと思って軽くギョッとする。

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コルへ下る直前、展望ポイントから五郎山南壁がすべて見渡せた。う~~~~む。遠くからでは分からん。A沼さんのプランは一番ラインを長くとれそうな左端のスカイライン付近。私は、自分も肉眼でホントに行けるのか見ないといかんぞ、と少々気が急いた。

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コルに着き休憩タイム中、とりあえず一人で偵察。壁沿いにバーッと下ってみる。最初はハングしているが、やがて垂壁からスラブになり、末端付近は苔と白樺に埋まっていた。登り始めるのはスラブのあたりだろう。コルに戻り、すでにお仕度済のA沼さんとM田さんに遅れないよう大急ぎでお仕度し、もう一度壁沿いを下って行った。

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<ルート>

1p(25m Ⅲ級)

トップバッターはここに私たちを連れてきてくれたA沼さん。3~4m上方に長細い倒木が真横に架かっている印象的な箇所から登り出した。樹林帯からの出だしだし、見た目的にもブッシュ登りがメインになるのかと思いきや、登ってみるときちんと岩登りだった。下部は日が差しておらず少々寒いが、登るごとに陽光が差す壁が近くなる。ちょうどブッシュが切れ岩茸がびっしり張り付いた白と黒の壁が広がる基部まで登り、1pを終えた。カム2点でアンカー。

 

2p(25m Ⅴ級)

ありがたいことに私の出番。出だしは5~6mの岩茸がびっしりのフェース。傾斜の若干緩い右側から登り出したが、スタンスが外傾していると滑りそうなので、念入りに掃除しながらのクライミング。岩茸をバリバリとこすり落とす。スメアリング的な足置きはちょっと出来る気がしない。そこからはブッシュ混じりのフェースをほぼ直上。少ない摂理にカムを入れようとしたが、カタカタ動いたり浅かったりで上手くいかず、ブッシュを主体にランニングをとった。が、ブッシュは何本か心もとないものもあり、割り切って登ることに。

そろそろ心が売り切れそうになってきた頃、コーナーを見上げる外傾テラスに出た。そのあたりでラインは、コーナーを直上し左のスカイライン(っぽいライン)、右の凹角と、2つとれそうだったが、にわかには決めらない。ここでピッチを切りたい! みんなと合流して相談したい! と切実に考え、コーナーに走る細くて汚いクラックをナッツキーで必死に掃除し、何回か失敗したあと、スモールカムとボールナッツがやっとばっちり決まってピッチを切った。時間がかかり、ビレイしてくれてたM田さんから「大丈夫ですかぁ?!」と声がかかった。ちょうどスリングから外したカラビナを口に咥えていた私は「ふががーえふー(大丈夫ですー)」と答えた。全身とんでもなく岩茸と砂まみれ。

 

3p(30m Ⅴ級)

狭いテラスに何とか3人立って相談。といってもセカンドビレイしながら観察する限り、私としては右側の凹角が一番簡単そうだと結論していた。左側は露出しているから高度感強めで怖いだろ。沢登りが多いためルンゼとか凹角とかが好きなのだ。次も皆さんのご好意(?)で私の出番。

最初は滑りそうなスタンスで右に3歩ほどトラバース。使うホールドとスタンスは常に掃除が必要。そこから凹角登り。やや右上気味に、岩の弱点をつくといった感じで登った。意外なことに2pと比べプロテクションがそう悪くない。岩茸クライミングに慣れてきたのかな。ムーブは沢登り的で、掃除してからハイステップとプッシュの連続。

空が広くなってくると終わりが近い。終わりはどうやらテラスになっているようだ。その直下で傾斜が強く狭い凹角となり、ムーブがマントル的でなかなか渋く核心だった気がする。最後はとても気持ちのよい、平らかなテラスに出て終了となった。

 

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1pは長細い倒木が架かるところから。

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ブッシュ帯が終わり岩茸の壁が広がるところまで。

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2p。岩茸をこそげ落としながらのクライミング。岩茸系クライミングはあまり経験がなく、私にとっては結構悪かった。

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外傾テラスからコーナーを見上げる。顕著にクラックが走っているが、その上がどうなってるか分からない。

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外傾テラスから右側。逆光で見にくかったが、行けそうな感じがした。

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3p登り出し。傾斜が強くなり、なかなか渋い。

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終了点テラスから見下ろす。

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最後は気持ちのよい平らかなテラスに出る。よいルートだなぁ。

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テラスから藪に入ると歩きやすい苔を踏んで、なんと5分もせずにピークに到着。お昼タイムを過ごし、あとは近の岩壁をいろいろと観察しながら下山した。

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帰りの車で、初登だしルート名どうしようか⁈の話になった。いろいろ案が出たが、トップアウトからピークまで歩き区間が5分程度だし、ダイレクトだね、という話になり、また同じ川上村の男山、天狗山と近くにダイレクトと銘打ったルートがあるので、それらへのリスペクトも込めて、「五郎山ダイレクト」でよいかね!となった。

私も、そしてM田さんも同じだと思うが、お山人生で初登攀なんて、そんな機会があるとは微塵も考えていなかった。なんだかふわふわした気分だが、やっぱりちょっと嬉しい。A沼さんに多謝。

もっとも五郎山ダイレクトはいわゆる篤志家向けルート。岩茸と砂にまみれ、節理も多くなく、かなり泥臭いクライミングになる。正直これが楽しいと思う人は少ないかもしれないが、岩は意外に固いし、好きな人はとっても好きでしょう。11月ならカラマツの美しい林に囲まれながら、空の向こうには槍ヶ岳まで眺められる。そして何より誰もいない静寂のなか登ることが出来る。

 

登山道入口(9:45)~登山道コル(10:50)~取り付き(11:15)~テラス(13:45)~五郎山ピーク(14:15)~登山道入口(15:30)

ギア:ダブルロープ50m2本、カム小さめ2セット、ボールナッツ、ハーケン少し(不使用)、ボルトキット(不使用)