ゲートに車を停めてかったるい林道歩きを1時間半。「平滝」というきれいな滝を見たいと言って、その下から入渓した。「泙川」って以前は地形図で「たにがわ」とルビがふってあったが、今回見てみたら「ひらかわ」。どうなってるんだろ?ひらかわの間違いだったのかなぁ。
そのまま沢歩き。今日はえらい渇水らしい。私は初めてだったが、数回来ている仲間2名は口々に水の少なさを嘆いた。これはあんま釣れないかもなぁ、と。
林道でも、下流を釣り上がって戻ってきたという釣り師の兄さんと会って、彼は「魚がいなくなった!」とプンプンしていた。強欲なおじさんが10尾でも根こそぎ持って帰るんですよ、と。毎週どこか渓流釣りに入っているツワモノの兄さんが言うのだから、少なくとも泙川下流のイワナが減ったのは事実らしい。釣りが門外漢の私からしたらまったくの他人事なのだが。
でも今日は大いに関係ありなんだよな!今日は釣りを教えてもらいに来たんだからな。
今日は15時くらいから相当の降雨が予報されているのだ。
ヘリテージのタープ小を二つ合わせて、雨が自然に流れ落ちるように斜めに張った。でかいブルーシートで居場所を作って、奥側に寝床となるクロスオーバードームを立てた。雨の夜に備えて乾いているうちに大量の薪を集めた。焚火とタープの位置関係の調整。荷物の整理。釣りの準備。私ら3人で、それぞれが淡々と協力し合ってやっていく・・、こういった山の生活が組み立っていく道程は好きだ。余計なコミュニケーションもない。それぞれが必要なことがなにか分かっているから。
では行こうか。
私には山の生活においていろいろな特技や特性を持った仲間がいて、きのことか山菜とか、猟師とか釣り師とか・・。みな本当に個性的だ。
平凡な自分もなにか新しいことを、と思った時、自然と一番近しい山仲間の特技をやってみたい気持ちになった。それが渓流釣りだった。「今週末どうするんですか?」そんなありふれたやり取りから私の気持ちを汲んでくれたのか、「釣り、教えるよ」と言ってくれた。いや、自分が言わせたのか?
なかなか釣れない。と思っていたら熟達者たる師匠(?)が釣り上げた。さすが。しかし、今日はじめじめした晴れで水温も高く、イワナの活性がかなり低いようで、姿を確認しても岩陰から出てこないらしい。
私は・・、釣れる釣れないはともかく、竿を振りまくる。できるだけ同じところを狙って何回も毛鉤を落とす。近眼なのでしばしば毛鉤を見失い、とりあえず偏光サングラスを買わなきゃいかんなと結論した。そして、始めて1時間で2回ほど水面から毛鉤を口に含もうとするイワナが一瞬見えたような気がしたが、近眼だし、上手に合わせられなくて、釣り上げることは叶わず。
いつもとは異なる集中力でえらく疲れる。竿を振る右手も怪我していることもあって、痛く、重くなってくる。試しに左手で振ってみたら、ぜんぜん悪くない。むしろいいかも。両手使いで竿を振りまくった。でもまったくダメだ・・。そりゃそうか。ド素人だしな。
そのまま3人で釣り上がり、三俣沢に入って少し進んだところで・・。
イワナが上流に向けてぴゅんと走った。それを追いかけるように、ポイントになる箇所になるべく丁寧に、いやしつこく毛鉤を投げながら、少しずつ遡上していった。
ここはさすがに違うかな、と思ったが、岩で小さなエディを形成しているポイントに投げたら、あー、水中で枝か何かに引っかかったらしい。無理に引くと毛鉤が取れちゃうかもしれないから、おそるおそる引いていたら、「釣れてるよ?!」と言われ、いやいや枝に引っかかっただけで、「え?」釣れてるわけないじゃんと思いながら、竿を上げたら・・。
なんと釣れてた。
小さなコで、釣り上げた瞬間思ったのは「なんで僕なんかに釣られちゃったの!?」である。アホなコだなぁとか、不憫だのぅとか、思ってもみなかった感情が湧いた。で、針を外してもらって、ちょっともじもじして、私が言い出すより先に仲間がリリースだよねぇと言ってくれて、ホッとして私もリリースですよねぇと言った。
これが私の初めての釣果であった。
それからまもなく予報どおり雨が降ってきて、急いでテン場に戻った。雨は途中から土砂降りになった。
しばらくして雨は止んだが、今晩は断続的に降り続けるはずだ。快適な雨の夜を過ごすため再び生活の準備を行った。完全お任せの夕飯では、なんと天ぷらを揚げてくれるんだって!
食事周りの担当が何もない私は、焚火を起こすことにした。
なかなか素晴らしいテン場に恵まれた。
おいしい天ぷら。山芋、ネギ、みょうが・・・もうあと何を揚げてもらったか忘れた。とにかくおつまみどんどん出てくる!もうずっとお腹いっぱい状態!
ものすごい土砂降りになって、ボロタープの裏面を雨が幾筋も伝ってポタポタ落ちてきた。表面は角度が完璧で水溜まりになることなく向こうに流れていった。焚火が消えるんじゃないかと思ったが、蓋をするように太めの枝を積んでみたら、ぐゎ~と盛り上がってタープが燃え上がらんばかりの火勢になった。結局焚火は鎮火することなく燃え続け、土砂降りにもめげずに夜中までだらだら酒を飲んで過ごした。
朝5時に目が覚めて、とりあえず焚火を起こした。午前中はまた釣りに行って・・、と予定していたが、そのまま4時間くらい、小さくなった焚火に濡れた枝をくべたりして、だらだらし続けた。釣り師が一人上がってきて、しばらくして戻ってきて、尺が上がったと教えてくれた。雨の後でイワナが活性化しているらしい。もはや他人事のように思っただけだ。
遅い朝食を9時だったか10時だったかに作ってもらって、あとは下山。